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第57話・SNOW
「けっこう積もったんかな……雪?」
朝日が、ドレープカーテンの合わせ目からまばゆい光を一条さしこんできたので、真司は、意志的な柳眉をしかめながら自然と夢路からただよい出て、カスレた声でつぶやいた。
窓の外をのぞき見たくて、物憂げに枕辺に身を起こそうとしたら、兄の両腕に抱え込まれてベッドに引き戻される。
ほんのわずかでも素肌が離れるのを許さないように、兄は、真司の背中にピッタリと身を寄せて、しっとりとしたヌクモリを慈しむように、なめらかなウナジに唇を寄せた。
「くすぐってぇよ……アニキ……っ」
と、真司は、仔犬のように鼻を鳴らしながら身をよじらせた。
そして、毛布からはみ出した肩をふいにブルリと震わせる。
「……なんか……スゲぇ、静かだな」
……まるで、世界中に、兄と自分だけが取り残されたような……そんなバカげた錯覚がトートツに胸を打つ。
そんな子供じみた感傷を吹き飛ばしてくれるように、兄は、柔らかな耳朶に唇を押し当てて、優しく言い含める。
「雪には、音を吸い込んでしまう性質があるからな」
「へぇ、マジで? だから、雪の日って、こんなにシーンとしてんのかぁ……」
真司は、素直に感心して、背後に首をひねった。
兄は、カーテンの隙間から漏れ込む、白銀に照り返った一筋の光源だけが頼りの暗い部屋の中で、もっと深い闇色の双眸を涼しげにきらめかせながら、真司の瞳をのぞきこんだ。
「……だから、どれだけデカい声をあげてもいいんだぜ、真司?」
長く器用な白い指が、ゆるやかに真司の下肢の付け根へと降りていく。
「ちょっ……? ウ、ウソ……っ、……ゆうべ、あんだけヤッたのに!? 朝っぱらからサカってんじゃねーよ、エロアニキィィィーっっ!!」
凍える朝の冷気を切り裂いた弟の悲痛な絶叫は、しんしんと降り積もった純白の雪に吸い込まれて、汚れない静寂の中に消えた。
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