103人が本棚に入れています
本棚に追加
第59話・(バレンタインSS)家政腐の陰謀
なんだかなぁ。
ウチに通ってくれてるハウスキーパーのモエちゃん?
年上だけど、そこそこカワイイし、いっつもニコニコ……てか、ニヤニヤ? ……してて、明るくてイイヒトなんだけど……
ちょっと変わってるってか、距離感おかしいってか。
昨日だって、なんかトートツに『友チョコ』だとかゆーのをムリヤリ押しつけてきたしさぁ。
「シンジさんが用意したってことにして、明日おにーさんに渡したら喜びますから絶対に」
って、めっちゃガンガンこられたから、イキオイにのまれて思わず「ハイ」って返事しちゃったけど。
ぶっちゃけダリーわ。
つか、こんなのオレが渡さなくたって、昔っからバレンタインデーには、デカいダンボール箱の3つや4つはチョコを詰め込んで持って帰ってくるんだからさ、アニキは。
でもって、箱にガムテープはって梱包して、オヤジの病院とツキアイのある子供用の養護施設に、そのまんま届けちゃうんだけどな。
まあ、せめて中身はカクニンしろと。
気合いの入った手作りチョコなんか入ってた日にゃ、送った方だって送られた方だってメーワクでしょ。そこは。
とにかくスイーツなんぞに興味ねぇんよ、アニキは。
お義理でオレがチョコをあげたって、素直に喜んでみせるようなタマでもねーってば。
ナイショでオレが食っちゃおうかなー……なんてことも考えたんだけど、さすがにモエちゃんに申し訳ねーか。
てか、あのヒト、オレがちゃんとチョコ渡したか、後でアニキに確認しそうな雰囲気あるんよなぁ。ヤバすぎ。
しゃーねぇ、サラッと渡しとくか。
……とまあ、ハラをくくって、アニキの部屋のドアを開けた。
「アニキぃー、……ちょっといい?」
「なんだ? こんな時間に、珍しいな」
机の上に広げた分厚い本を読んでいたアニキは、椅子ごと振り返った。
ケゲンそうにオレを見る目が、ちょっと疲れて見えて。
なんつーか、それって、……らしくねぇ顔。
研修医のスケジュールって、やたらとハードみたいだもんな。
いつも朝早くに家を出て、深夜近くになって家に戻ってくる。
んで、帰ってきてからも、こうやって机に向かってコムズカシい本を読んでる。
たまに甘ったるいチョコのひとつでも食わせてやるのは、いいコトかもしんねーな、うん。
アニキには、いつだってエラそうにフンゾリ返っててもらわねーと、調子狂っちゃうのよ、オレだって。
ま、そんだけの話。
深い意味なんてないんだから。
サリゲにチョコッとチョコ渡して部屋を出ていきゃあいいんだよチョコッと。チョコだけにってな。はぁー、くだらね。
「あのさー、アニキ……こ、これ……」
「…………?」
「なんつーか……友チョコっつーらしいんだけど……」
「…………ホモチョコ?」
「ちっ、ちがうわっ!」
真顔で言うんじゃないよ、そゆこと!
「友チョコだってば、ト・モ・チョコ」
「義理チョコってのと、違うのか?」
「義理チョコは、女子から男子に渡すんじゃん。友チョコってのは、オトコ同士とかオンナ同士でヤリトリすんだってさ」
モエちゃんのウケウリだけどな。
「ふぅん。費用対効果の高いマーケティングミックスだな。菓子業界ってのはシタタカなんだな」
アニキは、すこぶる感心したようにつぶやきながら、キラビヤカなラッピングの小さな包みをオレの手から受け取って、
「サンキュ。ちょうど甘いモノが欲しいと思ってたんだ」
と、切れ長の目尻を思いっきり下げて、ニコニコした。
不覚にも、ちょっとドキッとしたのは……あまりに想定外のリアクションだったからだ。
ロコツにウサンクサげな表情されたりとか。茶化されたりとか。鼻で笑われたりすんじゃねぇかと身構えてたから。そんだけのことだ。
だから、なんか、……調子狂う。
「サッサと開けて食えば?」
オレは、ブッキラボウに言ってソッポを向いた。
わけもなくユデダコみてぇになってそうな顔を、アニキに見られたくなかったし。
ガサガサと包みを開ける音がして、ほんの少しの沈黙の後、アニキは言った。
「本当に今すぐゴチソウになっていいのか?」
「いいって、いいって。エンリョしないでサッサと食べれば」
オレは、せいいっぱいヘラヘラ笑ってアニキを振り返った。
とたんにアニキは、椅子から立ち上がるなり、オレをガシッと抱きかかえて、イヤオウなくベッドに引きずると、
「では、遠慮なく使わせてもらおう」
ムカつくほどコギレイな顔にムカつくほど浮かれた笑顔を浮かべて、オレを押し倒しやがった。
「はぁ……っ!? つ、使う……って?」
……チョコは、食うモンだろーが!
「オマエも、早く味見させてほしいんだろ?」
「は? なにを言って……てか、ちょっ……ぬ、脱がすなーっ!」
なんで、いきなりサカってんの?
どこにスイッチがあったワケ? いや、ぜんっぜん意味わかんねー……
オレのアタマん中がクエスチョンマークでいっぱいになってる間に、アニキはオレを丸裸にひんむいて、自分もシャツを脱ぎ捨てた。
なにせ10代の頃から年季の入った熟練スキルだから、このあたりは目にも止まらぬハヤワザなんである。
かえすがえすもカワイソウなオレ……
でもって、ズボンの下も御開帳……って、ヤダもうウソでしょ? もうガッツリとフルチャージ状態?
「高校生かよ、アンタはっ!」
「"サッサと食べろ"と言ったのはオマエだろうが」
なにを今さらとばかりに鼻を鳴らすと、アニキは、オレの下腹に馬乗りになりながら『友チョコ』の箱のフタを開けて、中身を取り出して見せた。
「ウソ、なんで? だって、ソレって……」
オレは、酸欠の金魚よろしくパクパクと口を動かしながら、ベッドの上に放り捨てられた空き箱を引ったくり、目の前に寄せて商品説明を読み上げた。
「"チョコレートの甘ーい香り付きの潤滑ジェルがタップリ" ……!?」
見かけによらずイタズラの性質が悪すぎだって……
恨むぜ、モエちゃん……!
「では、エンリョなく。いただきます」
涼しい声とはウラハラのエロい目つきでオレを見下ろしながら、アニキは、蛇腹状につながった薄っぺらい6連のパッケージの端を真っ白い歯で噛み切ると、慣れたシグサで"チョコレートの甘ーい香り付き潤滑ジェルがタップリ"と塗りたくられたコンドームをセッティングした。
宣言どおりアニキは、6連パッケージの中身を朝までにキレイに空っぽにして意気揚々と病院に出勤し、足腰が立たなくなったオレは、やむをえず職場に欠勤の電話を入れるハメになった。
最初のコメントを投稿しよう!