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第60話・独壇場ビューティー(前編)
「わぁー、もう満開を過ぎちゃったんだねぇ……でも、ライトアップされててキレイだなぁ」
祝い花の配達帰り、信号待ちの交差点で、営業車のハンドルに両ヒジを乗せてフロントガラスの向こうを見上げながら、ミヤさまはホーッとタメ息をついた。
この辺りは、地元民にとっちゃメジャーな花見のスポットだ。
サクラの花をタワワにくっつけた枝がしなって、道路の上空にまで飛び出してる。
「今年は、全然お花見できなかったなぁ。新店の準備で忙しかったし……」
「……んじゃあ、ちょっと夜桜見物でもしてく?」
と、ナビシートに座ってたオレは、他意なくナニゲに言ってみた。
デカい公園の敷地の中には市営の遊園地があって、花見のシーズンは夜遅くまで営業をしてる。
なので、周辺一帯がいつになく明るくニギヤカで、向こうのジェットコースターの方からカン高い悲鳴なんかも聞こえてきたりして。
このまま素通りするのは、なんとなくモッタイねぇような気がしちまった。
まあ、アリテイに白状すれば、通りに並んだ屋台の食い物に目がクラんだだけだけど。
「真司君と2人でお花見デートができるなんて、光栄だなぁ」
ミヤさまは、相変わらずのチャラいヒトコトを付けくわえてから、駐車場に車を回した。
それにしても、イカの焼いたのにショウユをぶっかけたヤツの匂いって、犯罪級じゃね?
きっと合法ギリギリのヤバいフレグランスが混入されてる。中毒性があるもん。
オレは、香ばしいフレグランスに自然と吸い寄せられて、屋台の方向にフラフラ足を踏み出した。
とたんにミヤさまは、
「あっちに行ってみようよ、真司君」
と、オレを呼び止めた。
人混みの中で恥ずかしげもなくオレの手をつかんで、ガキみてぇにニコニコしながら、公園の中を引っぱりまわす。
ミヤさまレベルの王子様テイストの美形になると、フツーだったら失笑モノの言動でも、ウットリモードに変換される。犯罪級のチートよな。
ほら、さっき通り過ぎたオンナのコだって。ミヤさまに見とれて完全に目がハート型だったし。
連れのオトコは涙目だ。気の毒に。成仏しろよ。
『桜の樹の下には死体が埋まってる』って聞くけど、こういうことか、なるほど。
とはいえ、
「いや、ミヤさま……コレは、ちょっとイタダケねぇよ」
さすがに絶句した。
ミヤさまがウキウキした足取りで向かった先は、なんと、観覧車乗り場だったわけで。
さすが、天然タラシというべきか……
「……つっても、男2人でこんなん乗んの、絶対ヤダかんなっ!」
けど、ミヤさまは、
「いいから、いいから。平気だから、ホントに……ちょっとだから。大丈夫だから、ね?」
と、清純派OLのパンツを脱がせようとするAV監督みたいなノリで、目の前に到着したピンク色のゴンドラにオレを押し込みつつ、退路をふさぐ格好で、すかさず自分も一緒に乗り込んだ。
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