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第9話・容疑者Sの謹慎
ウチに帰って玄関のドアを開けたら、オニババ……もとい、オフクロが、腕を組んで仁王立ちしてやがった。
「……ゆうべから今まで、どこに行ってたの?」
「え、ええっと……バイト先の店長に呑みに連れてってもらって。んで、ウチに泊めてもらった」
「なんの連絡も寄こさないで外泊するなんてっ!」
「しゃーねーじゃん。ちょうど、ケータイのバッテリーが切れちゃって……」
「だったら、店長さんに電話を借りれば良かったじゃないのっ! ママがどんだけ心配したと思ってんのっ!? しんちゃんのバカっ!」
「一晩いなかったくらいでギャーギャー騒ぐんじゃねーよ。みっともねーだろーが」
オレが舌打ちすると、オフクロは、ざーとらしく目元を手でおさえた。
……さんざ心配してたというワリには、今日もすこぶるアイラインのノリがいいみてぇじゃねー?
「だってママ、心配なのよ! しんちゃんが、また昔みたいになっちゃったら、どうしようって。フラッと出かけたきり何日も帰ってこなかったり、いっつもケンカばっかりして服はボロボロでアザだらけ……」
「う……っ それは……」
少々ヤンチャしてた頃の『黒歴史』をヒキアイに出されて、オレは、ちょっとばかりタジろいだ。
「う、うっせーよ! もうガキじゃねーんだから、そんなバカやんねーっつーの! くだらねー昔話を持ち出すんじゃねーよ……」
「とにかく、ゆうべ無断外泊してママを心配させたのは事実なんだから、むこう1か月は夜遊び禁止! バイトが終わったら、まっすぐウチに帰ってらっしゃいね」
「はぁぁーっ!? ジョ、ジョーダンじゃねーよ!」
あさって、洋太が女のコを集めて念願の合コンをセッティングしてくれるっつーのにっ!
こんなチャンスは、オレにとっちゃメッタにないミラクルなんだぞっ!
なんつったって今週は、アニキが大学病院の指導医のセンセと一緒にカナダの病院に研修旅行に行ってて、この日本にいないんだから!
ほんのヒトトキのフリーダム……ヘンタイアニキのガンジガラメの監視から解き放たれて、オレは自由なんだぞっ!
ちょっとくらいイキヌキをさせろっつーの!
テメェの息子がマットウな恋愛をつかみとれるかもしれない、ササヤカなチャンスなんだぞ?
くぅぅーっ……切なすぎて、目ガシラが熱くなってきやがったぜ……
「……っざけんな、クソババァーッッ!!」
オレは、魂のアリッタケを込めてチカラいっぱいシャウトした。
とたんに、
「テ……ッ! アダダダダダ……ッ! は、離せ、クソババ……っ」
……ハデに飾り立てた長い爪で耳タブをつままれ、おもっきしグイグイ引っぱられた。
「国際電話で、密告するわよ……」
オフクロは、低い声で言った。
顔はいたって笑顔だが、底知れない怒りが妖気みたいに全身からただよってる。
「しんちゃんが無断外泊したこと、あっちゃんに密告するからね。ママの言うことが聞けないなら、代わりにお兄ちゃんに叱ってもらうといいわ」
「ちょ……っ!? き、汚ねぇぞーっっ、ババァっ!」
「はい?」
「く……っ、いや、あの……おおおおかぁさまっ! お願いっ、アニキにだけは内緒に……」
記憶なくすほど酔っぱらって、ミヤさまんとこに泊まったなんてことがアニキに知れたら、どれほどヒサンなオシオキをされることやら……
一生オムコに行けないカラダにされちゃうかも……。
「じゃあ、今日から1か月間、夜遊び禁止のペナルティを守るのよ、しんちゃん?」
「うっ……はい、おかあさま……」
グッバイ、オレのフリーダム……。
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