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再び彼女の気が向いたらしく、こちらに寄ってきた。相変わらずの微笑みである。
「開けて、カギ! ここ! こっち!」
俺はガラス越しに鍵の位置を示して呼びかけてみるけれど、彼女はそんなことおかまいなしだ。二メートルぐらい手前で立ち止まって、それ以上こっちに来てくれない。
手には何やらおやつらしきものを持っていて、俺に見せつけるように食べている。
くそう、こっちは暑さで汗だくだというのに!
けれど、仕方ないことではある。この家はもはや彼女のためにあるといっても過言ではないのだ。どんどん俺の居場所は追いやられ、部屋は彼女のものでうめつくされ、彼女が快適に安全に暮らせることが一番になっている。
ついに俺の居場所はベランダにまで追いやられてしまったのかと思うと、悲しくはあるけれど……
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