19人が本棚に入れています
本棚に追加
耳障りなセミの声がシュワシュワといっそう大きくなった気がする。室外機も相変わらずブンブン唸っている。暑さで干からびてしまう前に、ここからの脱出方法を考えねばなるまい。
ここで彼女が機嫌を損ねてしまったら手の打ちようがなくなる。彼女がいつまでも機嫌がいいとは限らないのだから。そうなる前に一刻も早く、中に入る必要がある。
とりあえず助けを求めてベランダの外へ目をやってみる。
下に降りれないだろうかとのぞいてみるが、マンション三階のベランダから下まで降りる勇気は俺にはない。スマホも部屋の中で、状況は完全に詰んでいる。
ふと、遠くに人影がこちらに歩いてくるのが見えた。
助けを呼ぼうか。いや、まてよ。そんなことをしたらきっと、マンション中、いや、近所中のうわさになるに違いない。
「あそこの○○さんの旦那さん、ベランダに締め出されたらしいわよ」
想像するだけで顔から火が出そうだ。暑さですでに火が出ている気もするけれど。
俺が助けを呼ぶべきその人影は次第に近づいてくる。幸いなことに、その人以外にはまわりに人は見当たらない。
助けを呼ぶなら今なのかもしれない。
恥ずかしがっている場合ではない。
ええい、もう叫んでしまえ!
俺は覚悟を決めると、その目標の彼女に向けて精一杯声を張り上げた。
「ひろみ! 早く戻ってくれ! さくらに締め出された!」
最初のコメントを投稿しよう!