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俺の叫び声に状況を把握した妻のひろみは、買い物袋を手に走り出した。
五分とたたず玄関が開き、ベランダのカギを締めた張本人の一歳児、娘のさくらが玄関のママに向かって走っていく。
少し経って、さくらを抱いたひろみがベランダにいる俺の方に寄ってきた。
俺をベランダに締め出した二人は、そっくりな微笑みを浮かべて、こっちを見ている。
俺はため息をつきながらもホッとして、コツコツとまたガラスを叩く。
もうとっくに暑さの限界だ。早く部屋に入りたい。
やっとひろみがベランダの鍵を開けてくれて、俺は室外機の音と蒸し暑さから解放された。
「もう、さくらに何かあったらどうするのよ」
こんな目にあっても叱られるのは俺の方だ。汗をぬぐいながら「ごめん」とつぶやく。
でも確かに俺がベランダにいる間に、さくらが椅子に上って落ちたり風呂場で溺れたりする危険はあったわけだ。何も言い返せずにうつむく。
けれど、ひろみはベランダの方にチラッと目をやっていろいろ察知したようで、俺がそれ以上、叱られることはなかった。
「たけし、洗濯物干してくれたのね。ありがとう」
俺は何だか恥ずかしくなって、頭をかいた。
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