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7 機械に眠る名残
崩れ落ちた浩子の耳に、いつか歌を教えたときの恵美子の声が響いている。
ロボットなど二度と見たくない。
あれが恵美子でなくても、エミコだということを、認めたくなかっただけなのだ。
浩子は脚を震わせながら、手元の椅子を頼りに立ち上がり、玄関口までよろよろと歩いた。家の外へ出ると、エミコと勝が夕日の中でうなだれながら遠ざかっていく様子が見える。
「恵美子ッ!」
叫んだ。勝よりも先にエミコが振り返った。履き違えたサンダルとともに浩子が脚を引きずると、エミコが脇目も振らずに駆け寄ってきた。
浩子は、エミコを抱きしめた。
「もう二度と、私の前に姿を見せないで」
つかのま抱きしめた娘の思考を持つロボットを、浩子は涙とともに突き放した。
エミコはロボットだ。
そして恵美子が生きられなかった、未来だ。
「幸せになりなさい」
二度と振り返らず、浩子は家に飛び込んだ。
部屋の中に肉じゃがの匂いがした。
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