君を幸せにする為に、僕に出来ること

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家に帰るまでの道のりには、大きなパチンコ屋の横を通る。 いつだって駐車場には車が沢山停まっていて、僕の親は遅くまで仕事で帰ってこないけれど、此処に居る人達は暇なのかな?と思う。 それから、大きな橋を渡る。 橋を渡りきると、川に沿って歩く。 街灯が少ないこの道は秋から冬にかけては真っ暗になるが、まだ暖かい時期の今はまだ全然明るい。 僕はいつも、気分に任せて寄り道をする。 左に曲がる最短ルートを真っ直ぐ行ってみたり。土手に座ってぼーっと川鳥を眺めたり。それこそ、無駄な時間を過ごす。 熱心な人は、早く帰って勉強に取り掛かっているのかもしれない。趣味を持つ人は、親が帰ってくるまでの間、勉強してたふりをして趣味に没頭してるのかもしれない。 そんなの、なんだか眩しい。僕には無い。何も。 勉強しなくても97点が採れた。 無趣味。 志望している高校は余程の事がない限りは落ちることは無いだろうし、一日24時間と言うのは無趣味の僕には長過ぎた。 人は人生の三分の一を寝て過ごすらしい。 知った時には、勿体ない、と思ったけれど、改めて考えてみると、充分寝ていてもまだ一日の三分の二の時間が余っているのかと思うと、絶望しそうだった。 大きく回り道をして帰宅したが、当然、家には誰も居ない。 ただいま、も言わずに玄関に入り、スリッパを履く。 父親は単身赴任。県外への異動が決まった時、この土地に永住する為に家を買った。僕を転校生にするのが忍びない、と言って。二人では広過ぎる一軒家に僕と母さんを残して、父の単身赴任ももう六年程になる。 暴力こそ無かったものの、両親は子供の目でもわかる程、不仲だった。二人の考えや想いが、互いに行き違っていてちぐはぐだった。 当然喜ぶだろう、と思って母さんの誕生日にネックレスを渡した父。壊れたらいけないからと仕舞い込んだ母さんに、父は怒った。大事にしてくれてない!と。 毎日身に着ける事が『大事にすること』である父。 ここぞという時に着けるのが『大事にすること』である母。 最初は、そんなすれ違いだったはずだった。 子供だった僕は、それを言い表す適切な言葉を知らなくて『不憫な人達』とすら思えなかったけれど、今なら「価値観が違うだけだよ」と双方に声をかけてやれるだろう。…ところで、離婚の理由の第一は『価値観の不一致』らしい。 でも、彼らは遂に離婚しなかった。きっと、単身赴任になったのが良かった。…離婚しなかったのが『良かった』のか、わからないけど。 取り敢えず、もし僕に欠けているところがあるとするならばそれは、この両親の不仲のせいと言うことにしておこうと思ってる。 辺りがすっかり暗くなった頃、玄関で鍵が開く音がした。ビニール袋の音がする。平日は大体いつも、出来合いのお惣菜だ。 「ただいま。また、電気も点けずに…」 リビングに入ってきた母さんは驚き半分、呆れ半分でリビングの電気を点けた。 「誰も居ないのに電気点けるの、勿体無いから」 「あんたが居るのに?」 母さんは苦笑して、台所に向かった。
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