君を幸せにする為に、僕に出来ること

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次の日も、僕の足は神社に向かった。 家なんて知らないけど、そこに行けばあの少年に会える気がした。 予感は的中。 少年は数段しかない石段の上に座って、空を眺めていた。 今日は、怪我をしていなかった。 「……何してるの?」 「空を見てるの」 「楽しい?」 「僕は好きだよ」 つられて、空を見上げる。 なんの変哲も無い空。何処までも青く、白い雲がゆっくりと流れていく。 「落ち着くよね」 僕が頷くと、少年は嬉しそうな顔をした。 「エーくんにはこの良さがわかるんだね!」 周りの人達は「渋い」とか「もっと楽しいことが他に沢山あるよ」なんて言うんだ、と少年は頬を膨らまさんばかりに不満そうな声音で言う。 「好きなことなんて、人それぞれでいいのにね」 「……そうだね」 僕も隣に座って、暫くぼんやりと空を眺めた。 そういえばこうやって空を眺めることがかつての自分も好きだったなぁ…と思った。いつの間にか、忘れてしまっていた。空ってこんなに綺麗な色だったんだな、と驚いた。 「僕はさ、大人になりたくないんだ」 徐ろに少年が呟いた。 「なんで?」 「大人って、皆、子供だから」 僕はまた吹き出した。 こんな小さな少年にそんなことを言わせた大人の顔を見てみたいな、と少し思った。 「凄くよくわかるよ。僕はだけど、だからこそ早く大人になりたい」 「なんで?」 「だって、そんな“大人”に子供扱いされてるの、なんか凄く嫌じゃない?」 「………………確かに」 少年は神妙な顔をして頷いた。僕は笑う。 この少年と居る時間が好きだなぁと素直にそう思った。僕はいつだって、誰かとこんな風に、取り留めもない会話をしたかったのかもしれない。 「エーくんってさ、AB型でしょう?」 「そうだけど?」 「やっぱりね!気が合うと思った」 「血液型による性格の違いなんてのは、医学的根拠なんて無いんだよ」 「……そんなこと、知ってるけどさ。そんな話するのは、とってもナンセンスだよ」 ナンセンスって…。 小学四年生くらいの少年にそんなことを言われて、僕は言葉を失った。 「今のはちょっと、僕の知ってる“大人”の匂いがしたよ」 「それはちょっと心外だな」 「じゃあもう、大人のふりはやめてよね」 大人のふり、と言われて苦笑した。 少年が「大人って子供」と言うなら、彼は「子供の見た目をした大人」だった。 「確かに少年の言う通りだ。今のは面白くなかったね」 「うん」 素直に認められるのは良いことだね。とまた笑う。つられてまた、僕も笑う。 風がちょうど良い心地好さで吹いて、僕達の髪を撫でた。 世界は、僕が思っているよりもずっと面白いものなのかもしれない。
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