君を幸せにする為に、僕に出来ること

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……きっと、そんな風に思った帳尻合わせ。 帰宅すると、父親が帰ってきていた。 「おう。おかえり」 さも、いつもそんな会話をしているように。父は僕の顔を見て、「ただいま」ではなく、そう言った。 「………どうしたの?今日、帰ってくるって言ってた?」 僕はそれには応えず、疑問をそのまま口にした。感情がスッと冷えて、死んでいくみたいだった。 今日みたいにふらりと帰ってくることは度々あったけれど、その時はいつも、朝に母さんが素っ気なく「今日、帰ってくるみたいよ」と言う。今日はそれがなかったから、何と無く嫌な予感がした。 「……母さん、知ってる?言った?」 「なんで自分の家に帰ってくるのに、母さんに言わなきゃいけないんだ?」 「………」 そういうところだよ、と思ったが口をつぐんだ。 社会人なんでしょ?報連相って、知ってます? 「……晩御飯の都合とか、あるじゃん。僕、連絡しておくから…」 きっと母さんも、疲れて帰ってきて先に知らせもなくこの人が帰ってきていたら疲れが倍増する…。それを危惧して、僕は少し母さんの気持ちに寄り添うようにメッセージを入れた。 『父さん帰って来てるよ。いつも突然だから、本当に困っちゃうよね』 ああ、神様。 今晩はどうか、ケンカしませんように。 そう願ったけれど、その願いはいつも何処にも届かない。 母が買ってきた晩御飯を三人で食べながら、会話の雲行きが怪しくなってきたのがわかる。 「いつもお惣菜なのか?」 「帰りが遅過ぎる」 「いつもこんなに会話がない晩御飯なのか?」 終いにはいつも、僕のこと。 僕が可哀想だと言い出すから、僕はちょっぴり父が嫌いだった。我が家の平和の為に、ずっと単身赴任でローンだけ払ってくれていたらいいのに、と思っていた。 いつもいないくせに、と思う。 居ても母さんばかり責めるから、やっぱり居なくて良いや。 僕は味のしないお惣菜を素早く飲み込んで、さっさと二階へ上がった。 でも、どんなつまらない会話をしているのか聞いていてやろう、と密かに聞き耳を立てていた。 膝を抱えて、息を殺して。 耳を澄ませて、心を閉ざして…。 『大人って、皆、子供』 ちょっと不貞腐れたような、少年の声が響いた。 ほんとそう。うんざりするくらい、僕もそう思う。 早く大人になりたかった。 早く“自由”になりたかった。 此処じゃない何処かへ、帰る場所が欲しかった。
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