6人が本棚に入れています
本棚に追加
俊太郎は、このごっこ遊びに些かうんざりして来ていた。
「俺はお前が望むものは総て与えた筈だ。この上に何が必要なんだ」
「……分かンないの」
みすずの顔は最早、蒼ざめてきていた。
胸の奥がチリチリとした感覚を持ち、自分を責めた。こんな小娘を虐めて何になるのか。それで自分を罰したつもりなのか。
「パパなんか嫌い」
みすずが絞りだすように言った。
「嫌い、嫌い」
そうして俊太郎の腕や顔をその細い腕で叩き始めた。ネイルをした指が眼の端に入り、涙が滲んで痛みが走った。
「よせ。もう子供じゃないだろう」
極力声を抑えて、俊太郎はみすずの両の手を自らの手で掴み、封じた。
眼が合った。
みすずの唇は、きつく食いしばられ、血が滲んでいた。
手を下ろさせ、俊太郎はみすずの唇の血をそっと、指で拭った。
「……そういう事するから。そんな風にするから」
最初のコメントを投稿しよう!