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また涙が溢れて、みすずは震え始めた。
俊太郎はそのまま小さな肩を抱き、暫くは泣くにまかせていた。
俊太郎には父が居なかった。俊太郎がまだ幼い時に、母が俊太郎を連れて、家を飛び出したという話は聞いていた。以来、母には何人もの男が出来、別れて行った。母はその頃にしては奔放な女性だった。自分の母が知らない男と寝ている様を、幾度となく眼にした。
それでも母は俊太郎を大学まで通わせ、卒業して小さな出版社勤務を始めた年に、身体を壊してそのまま、亡くなった。ろくに口も利かない母子だった。母親が俊太郎を大学にまで行かせたのは、彼の為を思っての事ではないのではないかと、俊太郎は思っていた。それは母の、別れた夫への虚勢というか、意地のようなものではなかったか。
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