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俊太郎の女性観は、母によるものが大きいとは自分でも気づいていた。作家を生業にしていて、編集者からそういった事を指摘された事もあった。
俊太郎は親子の情というものが分からない。男女の愛情というものも、分からないのかもしれない。その、人として欠損している部分を、書く題材にしてきたし、同時に自身に問いかけ、罰してきた。愛から一番遠い所にいる者だと、思ってきた。
みすずと一緒にいると、その罪悪感が彼女の形になって眼の前にいるように思えるのだ。
「ねぇ、覚えてる?あの約束」
消え入るような声で、みすずが言った。
「約束は守ったじゃないか」
「違うよ。守れてない。パパになってって、あたし頼んだじゃない」
身体を離して、頬の涙を指先で拭いながら、みすずは俊太郎を見つめた。涙のせいか、瞳が透き通っているようだった。
唇の血の痕が痛々しかった。
「あたし、おかしいかな?」
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