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「あたしだって知らない。ママも居なくなっちゃった。ずっと独りだった。淋しかった。だからこんなになったの」
みすずの素性を、詳しく聞いた事などなかった。どんな生い立ちか、どんな風に生きてきたのかも。そういう事と距離を置いて、俊太郎は自らに硬い殻を作って今まで、生きてきたのだった。
不意に、みすずが身体を起こして、俊太郎の身体をかき抱いた。冷たい乳房の感触が、頬にあった。みすずの指が、俊太郎の髪を撫でた。
「いい子でいるから。これからはいい子でいます。だから、あたしを愛して」
「みすず」
漸く、俊太郎にはみすずの気持ちが分かった。それは不毛な事にようにも思えた。傷をなめ合うようなものにも思えた。
父というものを知らない同士が、ままごとをするようなものだ。
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