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声は低く、動物の唸りのようだった。手に、肉切り用の包丁を持っていた。
「二人してよ。ふざけてんのかよ」
男が踏み出したのと、みすずが猫のように俊太郎の前に飛び出したのが同時だった。
嫌な音がした。
みすずの身体から力が抜け、その白い腕が俊太郎にすがり、妙な呼吸音を最後に、床に崩れ落ちた。
「みすず」
俊太郎は静かに尋ねた。みすずの声が返ってくるのを待った。
返事は返ってこなかった。あの甘い声は、聴こえなかった。
「おい、」
男性は包丁を手に震えていた。みすずから噴き出した血で、洋服が赤く濡れていた。
「満足か」
男性が腰を抜かしたように床に手をついた。フローリングの床に、赤い手の痕がついた。
「出てけ。これは俺の失敗だ。行け」
包丁を放り出し、男性は這うようにして玄関から飛び出して行った。
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