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神楽坂の奥の辺りにある女の子のいる店で、初めてみすずに会った。若い編集者がこの店は良いと俊太郎を案内したのだが、何を基準に連れてきたのか、俊太郎には理解し難かった。或いは編集者のお目当ての子がいたのかもしれない。
みすずは源氏名ではない。源氏名は『みれい』と言った。大学生にも見える外見に濃いメイクをして、酒を作る手つきも馴れたものだった。
「お客様、無口で怖い」
みすずはただ酒を飲んでいる俊太郎に、甘えるようにそう言った。
「お喋りな男がいいか?」
「お喋りなおじさんは嫌かも」
「だから黙ってるんだ。君も楽だし、俺も酒を愉しめる。ウインウインってやつだ」
俊太郎のおどけた風な軽口に、みすずがころころと笑った。
「ウインウインなんて久しぶりに聴いたわ」
「おじさんってのは、こういう事を言うんだ。嫌だろう?」
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