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「ねぇ、覚えてる?あの約束」
小沢俊太郎の厚みのある胸板に小さな顔を乗せ、野宮みすずは甘えた猫のような声で、そう訊いた。
少し白髪が混じり始めた小沢の胸の毛を、細く白い指で玩んでいる。
いつも艶のある丁寧なネイルをしていて、最初の頃はいつも褒めてやったものだった。
「あぁ、覚えてるよ」
みすずの濡れた髪のシャンプーの癖のある匂いと、繰り返されるその問いに少し面倒になって、俊太郎は身体を起こしてサイドテーブルに置いてあったショットグラスのバーボンをなめた。
煙草はみすずと知り合った頃にちょうど禁煙中で、つい口許に指を持って行ってしまう癖を彼女は面白がった。禁煙は成功したが、酒は止められなかった。
「あたしにも頂戴」
俊太郎の胸にふくよかな乳房を預けるようにしてグラスを取り、馴れた仕種で小首を傾げて琥珀色の液体を飲み干した。
「はぁ、美味し」
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