唯一の生き残り

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唯一の生き残り

2日後の朝から新聞社の会議室に職員は集められていた、「事件の概要はこの通りです」そう話すと記者の前川はテーブルに置かれたリモコンで画面をスライドした、すると事件の事が詳細に書かれた当時の新聞記事が映しだされた、昭和59年10月18日宮城県志田郡松島町に住む農家の山本 一雄、妻の早紀、そして長女の詩織が犠牲になった強盗殺人事件、周辺現場に住む住人の証言によって斉木 正夫を翌日逮捕に至った、このように新聞記事に取り上げられていた、「昭和史に残る残忍な殺人事件にも語られているのよね」画面を見つめる恵藤がそう呟いた、冴木は目を反らしながらも資料に目を通していた、「しかしながら殺害された山本家の次女である志乃はこの放火事件から唯一生き残る事ができています」すると恵藤はニヤリと笑みを浮かべながら手に持っていたペンで画面を差した、「彼女からの証言は取っておく必要があるわね」そう言うと恵藤はこちらを振り向き満更でもない顔で見つめてきた、「冴木君、彼女の取材は任せたわよ」気に食わない顔を見せながらも返事をした、「わかりました」。 午後になると会議が終わりしばらく暇をもて余していた斉木は自分のデスクに座りながらオフィスの窓を眺めていた、すると咄嗟に何かを思い出したかのように斉木は携帯を慌てて取り出した、斉木の携帯から電話を掛けた相手は母親の昌子だった、「もしもし、孝也だけど、ちょっと母さんに聞きたいことがあるんだけど?」突然の息子からの電話に戸惑いを隠せない母親であったが、すぐに用件を聞き返した、「何を聞きたいのよ?」 「昔、実家から少し離れた地区に住んでた山本さん覚えてる?」すると呆れた声で母親が話しかけてきた、「当たり前でしょ!忘れようにも忘れられないわ」母親は少し怒り口調へと変わってきた、「何か仕事と関係があるのよね、」 「まぁ、そう言うことです」母親の鋭い勘の強さは昔と変わっていないとお手上げであった、「実は志乃ちゃんが今どこにいるかどうしたも知りたくて」かつては親戚でよく森に行って兄弟同士仲良く遊ぶほど親密な関係であった、「志乃ちゃんならもう昔に村を出ていってどこにいるかわからないや」母親はそう応えた、しかし、「!、そう言えば黒滝さんが話していたの思い出した、たしか今は神奈川の病院で看護師として勤務してるって聞いたことがあるわ、たぶんだけどね」突然の母親の証言に斉木は驚いて携帯に耳を澄ませた、「それは本当か!?」 「行ってみたらいいんじゃない、可能性は低いけど」すると斉木は通話を切ってすぐにデスクの椅子から立ち上がりオフィスから出ていった、「行ってきます!」。 新聞社から出て駐車場に止めていた愛車に乗り込むと、エンジンをつけ車を走らせた、「取りあえず可能性がある場所から探っていこう」そう考えながらハンドルを握っていると再び母親の証言が頭から流れてきた、黒滝 桂吾郎、同じ農村地区に暮らしていた老人の農家である、あの日事件が起きたとき必死になってかばってくれたのは彼のお陰でもあった、そんな過去を振り返りながら車を運転していると、15分後には一つの大学病院へと着こうとしていた。 「残念ですがうちにはそのような職員はございません」受付の職員に山本 志乃という人物について伺うも、否定されてしまう始末になった、それからも幾つかの病院を駆け回るも彼女が働いているという声は見つからなかった、そしてまた新たに訪れた病院でも、「悪いけど、知りませんね、うちじゃないと思いますよ」 「ちょっと待ってください!」冷たい態度を取る男性の医者になんとか斉木は踏ん張っていた、「せめて写真だけでも見てくださいお願いします!」すると斉木はコートのポケットからまだ幼い頃の志乃の写真を差し出した、「コツコツ、コツコツ」二人の近くには入院をしている子供を車椅子で動かす看護師が横を歩いてきた、「だから知りませんよ!私はこれから予定がありますので失礼します」機嫌悪く医者は斉木のもとへと去っていってしまった、斉木は深くため息をついて諦めかけていたその時、「孝也君!」突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、すぐに聞こえてきた場所を振り向くと、斉木は驚きを隠せなかった、「久しぶり、孝也君」そこには白衣を着た美人な大人になっていた志乃の姿があった、最初はすぐに察知出来なかった斉木であったが、彼女の話し方ですぐに理解した、「こんなところで何してたの?」志乃は不思議そうな顔を浮かべ斉木に問いかけた、「ずっと探してたんだ、ここではあれだから場所を変えて話をしたい」。
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