43人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなある日、清が帰ってもう誰も来そうになかったのでお店を閉めようと思い外に出ると、誰かが道に蹲っていた。
なんだか見覚えのあるシルエットで、よく見るといつもの彼女だった。
慌てて、声をかけた。
「大丈夫ですか?具合悪そうですけど、立てそうですか?」と。
すると「大丈夫です、ちょっと目眩がしただけなので」女性は答えた。受け答えはちゃんとできる。だが目眩がするなら、少し休んだ方が良いだろうと思い、
「ならいいんですけど、もし良ければうちの店に寄って行かれませんか?すぐ目の前なんですけど、ハーブティーの専門店をしてるんです。ハーブはいろんな効能があるので、目眩に効くものもありますよ。軽くお腹に入れた方がいいですよ。」と半ば強引に彼女を店に連れて入った。
聞けば、朝早くにご飯を食べて以降お昼を食べていないと言う。
それでは貧血になってしまう。
体に良いハーブを使って、スープとハーブティー淹れて彼女に出した。
彼女は僕の顔をじっと見ていた。
いつも会っているが、彼女にとっては街中で会う大勢のうちの1人でしかないのだろう。特に僕のことを覚えているわけでもなさそうで、僕も彼女の名前を知らない。
そこで、今更感は否めないが名前を聞きたくて、自己紹介をした。
「そう言えば、まだ自己紹介してませんでしたね。僕は、睦月博音(むつき ひろと)と言います。」と言うと、彼女も釣られて自己紹介してくれた。
「私は、如月彩と言います。先程はほんとに有難うございました。」そして、改まってお礼を言ってくれた。
そして食事を済ませ、会計を頼まれたが、元々、メニューに入れていないので金額がないのだ。
だが、彩さんは良心が痛むらしく、困った顔をしていた。逆に申し訳ないことをした様な気になり、
「また、お昼を食べ損ねた日が有れば、何か作りますよ。」というと、彩さんは「えっ、いいんですか。」と目を輝かせていた。そして、彩さんは会計横に有った持ち帰り用のハーブを見ていた。
「お家でも飲まれますか?」と聞くと、
「はい、今日のハーブティーとても美味しかったので、普段も飲みたいなって思って…」と嬉しい事を言ってくれる。
これもサービスで渡そうと思ったが、彼女はお幾らですか?と聞いてきた。
食事代の会計を断る時、僕は「自分が勝手にした事だから」と言って断ったのだ。すると、今度は彩さんが「私が勝手に買って帰りたくなっただけなので」と言った。一本取られてしまった。
こんなやり取りが出来るなんて思っても見なかった。
最初のコメントを投稿しよう!