第4話 森に巣食う怪物

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第4話 森に巣食う怪物

 アルフレッド達が豊饒の森を目指して数日後。彼らはようやく目的地へと足を踏み入れた。昼間だと言うのに辺りは薄暗く、松明が恋しくなる程である。そんな森の中、今ばかりは激しい息遣いが響き渡った。 「ぜぇ、ぜぇ、結局担ぎっぱなしだったじゃねぇかよ!」  全てを背負ったままに駆け通しするという無茶は、雑な見通しの上で遂行された。それは実に丸四日間にも及ぶ大疾走であった。 「どうにか間に合ったわね。凄いじゃないの」 「別に褒められたって嬉しかねぇ。少しは歩けよな!」 「おとさん、すごいの! 鳥さんみたいに速かったの!」 「へへっ、そうかな。そんなに褒められちゃうと、おとさんすっごい喜んじゃうぞ?」 「何かしら、この格差は。どこかで解消したいものね」 「みんな、遊びに来たんじゃないからね。もう少し気を引き締めていこうよ」  モコがたしなめるなり、一同は再び歩みだした。先頭を行くのはアルフレッド。彼は四方に目線を送ると、しきりに首をかしげた。 「聞いた話と随分違うな。怪物とやらにエネルギーを吸われてるから、不毛の地に成り代わってるって言ったじゃねぇか」 「まだここは外周だもの。奥の方に行けば分かるわ」 「ふぅん。まぁ何だって良いけどな」  訝しむアルフレッドだが、奥の豹変ぶりを目の当たりにする前に甲高い悲鳴を聞いた。それは野太い足音とともに、行く手の方から迫ってくる。 「ギニャァァーー! 誰か助けてぇーーッ」  必死に逃げ惑う女、追う獣。大イノシシは狩りの為か、あるいは怒り心頭なのか、前を疾走する人物を一心不乱に追いかけた。 「あぁ、そこのお兄さん! 助けてください! 世界屈指の美少女が損失されかねない危機ですよ!」  女はまくしたてながら、アルフレッドの背中に隠れた。イノシシは僅かに標的を変えつつも、突撃の姿勢を崩さない。 「何なんだよ、これから大仕事って時に!」  迫り来る巨体。疾駆する馬に遜色ない程の速度。それらが生み出すパワーは相当なものだが、アルフレッドにしてみればお遊戯である。足の裏を突き出すだけで猛るイノシシを転がし、気絶させてしまった。 「ほぇぇ……お兄さん、めっちゃ強いんですねぇ」 「これで用は済んだろ。だったらどこか行け」 「あ、えっと、お礼をさせて欲しいなぁなんて」 「お礼だぁ? 別に大したことしてねぇぞ」 「とんでもない、とんでもない。ああ見えてメッタクソなピンチでしたから。ほら、うら若き美少女を助けたら、ほんのり甘美なお遊びが待ってるもんですよ」  そう豪語するだけあり、彼女の容姿は美しかった。金色の髪は長く、後ろ結びが女性的な曲線を示している。肌は白く、手足も細長い。そして抜群のプロポーションを惜しげもなく披露。大きなベルトをコルセット代わりとしてウエストを細く絞り、豊かに実った胸を強く強調する。極めつけはローブ。胸元が大きく開けているため、せめぎ合う胸の谷間が前面に押し出されていた。  ただし色気と無縁な人格のせいで、妖艶さは限りなく薄い。そのせいか、一応は年頃のアルフレッドも、性的な部分には眼を向けようとしなかった。 「お前、翼が生えてんだな。獣人か?」 「ふふん。ただの獣人とはちっとばかし違います。アタシは翼人族のアシュリー。龍のジジイ……おほん! 龍神様の下僕(しもべ)なんですから」 「下僕とは思えない単語が飛び出さなかったか」 「そんな下らない事はさておき! お兄さん強いですねぇ。どうです、アタシと組みませんか? 森の賢人との呼び声高いアシュリーちゃんと、お兄さんの力があれば向かう所敵なし……」 「要らん。帰れ」 「いやいやいや、せめてお話くらい聞いてくださいよ。アタシを仲間にすると大変お得ですよ? 古代魔法は使えるし、可愛いし、美人だし。今ならちょっとエッチなご褒美をあげちゃうかも! あぁ、でも本戦はナシの方向で、当面は予選くらいで我慢してもらいましょう……」 「要らん。帰れ」 「まさかの予選落ち!? どうしてですか、仲間にしてくださいよぉ」 「お前こそ何でだよ。行きずりの人間相手に執着しすぎだろ。何か企んでるのか?」  そう指摘されたアシュリーは、瞬間的に顔を歪ませた。暗い薄笑いを浮かべた直後、表情を別物に変え、太陽のような眩い笑みを見せつけた。 「お兄さん格好良いから、付いていきたいなぁって」 「おっそうか、嘘丸出しだな。お前の首をオシャレに90度ひん曲げてやろうか?」 「あっいえ、そのですね。ここにはトンデモねぇ化物が住み着いてるんです。お陰で豊穣の森が乱れに乱れて大変なんですよ。だから、そいつを倒してくれたら大助かりって感じです」 「そういう魂胆か。頼まれなくても倒すつもりだ。要望通りに事が運ぶかは知らん」 「素晴らしいですね。そんじゃあ無事討伐できた暁には、一緒に森の富を独占しちゃいましょ!」 「何でお前が1枚咬んでんだ、関係ねぇだろ」  会話を断ち切って歩き出すアルフレッド。しかしアシュリーは引き下がらず、しきりに傍をうろついては、やかましく説得を繰り返した。  その態度に痺れを切らすと、おもむろに足元の小石を拾い上げた。 「分かった、分かった。オレの負けだ」 「おおっと、こりゃあ熱意がズギャンと伝わりましたか?」 「あぁ伝わったとも。だが足手まといは要らないから、簡単な試験を受けてもらうぞ」 「試験って何するんです? まさかチクビ合戦とか……」 「この石を森のどこかに放り投げるから、拾ってこい」  アルフレッドは手元の石に目印を付け、渾身の力を込めて放り投げた。枝葉を巻き込んで騒がしくすると、石は彼方へ向かって飛んでいく。すかさずアシュリーは、脱兎の勢いで駆け去っていった。 「へぇ、キミにしては珍しい。てっきり脅かして追い払うもんだとばかり思ったよ」 「そうか。まぁ見つかりっこないからな」 「確かにこんな広い森の中で、小石を探し当てるのは骨が折れるよねぇ」 「違う、そうじゃねぇよ」  アルフレッドは握り拳を開いて見せた。そこには、先程刻んだ印と寸分違わぬ傷の石があった。そして強く握りしめることで、その石は粉々に砕けた。 「うわぁえげつない。投げたのはダミーって事かい?」 「もちろんだ。あんなうっせぇ奴を仲間にする訳ないだろ」 「まぁ、別にとやかく言う気はないけどね」  横槍に時間を取られたが、気を取り直して再開。鬱蒼と茂る森は、歩みを進めるほどに様相を変えていく。真昼の日差しが目につくようになると、草木は萎れていき、いつしか倒木までも目立つようになった。  やがて木々どころか、雑草の1本もない不毛の地へと辿り着いた。見渡す限りドス黒い土に覆われた、おぞましき大地である。 「ここか。いよいよ核心に近づいたって感じだな」 「おとさん。なんか臭いよぉ」 「腐臭ってヤツだな、これは」 「周囲に気配は無いわね。怪物はまだ遠くに居るみたいよ」 「そうか。じゃあ一旦はお別れだ」  アルフレッドは膝を折って屈むと、愛娘と目線を合わせた。 「シルヴィ、おとさんは仕事に行ってくるから森の中で待ってなさい。モコと一緒にね」 「おとさん。平気なの? あぶなくないの?」 「大丈夫さ。すぐ帰ってくるよ」  優しげな語り口調であっても、シルヴィアの胸騒ぎはやまない。父の胸に飛び込み、体温を感じ取る事でどうにか治まる程である。 「シルヴィ、森で遊ぶ時は気をつけて。イノシシを見かけたらすぐに隠れるんだ」 「うん、わかったの」 「キノコを見かけても食べないように。毒のある種類はたくさんあるからね」 「うん、食べないの」 「それから、木の枝や落ち葉に触る時は、じっくり確かめて。何かの卵やら引っ付いてるかもしれないから」 「うん、確かめるの」 「あとそうだな、他には……」 「アルフ、日が暮れるよ。さっさと倒しに行ってきたら?」  モコが追い払うかの様に言い放つと、仲睦まじい親子は一度離れた。それから何度も何度も互いに手を振り合い、さよならの合図。無限に続くかと思われたそれも、遂にはリタがアルフレッドの首根っこを掴むことで終焉を迎えた。 「うぅ、シルヴィ……おとさんと離れてても健やかになぁ」 「気持ちを切り替えて。さっさと片付ければ、それだけ早く会えるわよ」 「わかったよ。瞬殺してやらぁ」 「頼もしいことだわ、本当にね」  不毛の地を足早に駆け抜けて行く。すると、あちこちで、動物の死骸が見られるようになる。白骨化したものが多い中、腐肉を残す鳥の姿も珍しくはない。 「これが怪物の恐ろしい所ね。地脈の力だけじゃなく、付近の命までも奪って食らい付くしてしまうの」 「腐臭の正体はこれだったのか。なるほどね」 「もちろん私達も影響を受けるわ。今夜は新月だから、だいぶ弱々しいものだけど」 「つうかさ、なんで夜を待たないんだ。完全な新月を迎えた方が万全なんだろ?」 「その理由はね……」  リタが答えようとしたその瞬間。前方の地面にヒビ割れが生まれ、やがて地中から何者かが姿を現した。その身体は漆黒に染まり、生み出した陰で、アルフレッド達を悠々と覆い隠してしまえるほど巨大であった。 「全身が真っ黒のナマズ……こりゃ夜中に戦おうとは思わないな」 「そうよ。これこそ森に居座る厄介者、貪欲のツチナマズよ」 「そんじゃリタ、作戦は……危ねぇっ!」  先制はツチナマズ。宙空に浮かび上がると、身体を素早く回転させて、尾びれによる薙ぎ払いを浴びせた。2人は造作も無く避ける。  外れたとは言え、その威力は凄まじい。尾びれに当たった巨岩群は砕け散るか、あるいは小石のように転がされてしまい、並大抵の力でない事を浮き彫りにした。 「すげぇ力自慢だな。面倒くさそう」 「アルフ、作戦について説明するわね。私はこれから封印魔法の為に詠唱を始めるから、戦闘はアナタに任せるわ。思う存分にブチのめして」 「それは作戦って言えるのか?」 「任せたから、お願いね」  もう少しマシな作戦は無いのか。そう思いはしても、リタはすでに戦闘域の外だった。釈然としない面持ちのアルフレッドだが、小難しい話をされるよりはマシと拳を握りしめ、獲物と向かい合う。 「そんじゃ始めようぜ、ナマズ様よ。どっちが森の支配者に相応しいか勝負だ!」  アルフレッドが放つ闘気に反応して、ナマズも猛る。大地を揺るがすほどの咆哮をあげ、予備動作の無い突進を仕掛けてきた。  跳躍してかわすアルフレッドは、駆け抜ける風切り音に肝を冷やすほどの重みを感じた。 「でかくて速ぇ。そんだけでも厄介なのに、不死とくれば無敵みてぇなもんだよな」  振り向けば、ツチナマズの姿が消えた。代わりに腐食した地面が軌跡を描きつつ盛り上がる。空中だけでなく、地中すらも自在に動けるとあって、いよいよ面倒だと溜め息を漏らした。 「まぁいい。どんな相手でもブン殴れば終いだ」  アルフレッドは、敢えて力を抜いて隙を晒した。するとナマズは勢いよく顔を出し、無防備な背中目掛けて突撃した。 「釣られやがったな魚野郎!」  想定通りの展開だ。アルフレッドはその場で片足をあげ、ナマズの額に向けてかかとを振り下ろした。直撃。タイミングは絶妙で、巨体は手毬のように大地を転がっていく。 「トドメだ、食らいやがれ!」  アルフレッドは大きく跳躍し、渾身の力を拳に集約させた。濃紫のオーラをまとう痛烈な一撃が、無防備極まるドテッ腹に深々と突き刺さった。耳障りな断末魔の叫び。それは勝利を確信するのに十分な響きがあった。 「なんだよ。随分と呆気ねぇな」  今度は本当に気を抜いた。仕事は済んだと言わんばかりに、リタの姿を探して四方に眼を向けた。だがその視界の端が唐突に暗くなる。咄嗟に両手を突き出して応じれば、眼前にナマズの大口を見た。 「てめぇ、不意打ちとか卑怯だろ。プライドとかねぇのかよ」 「オゴォォォ」 「オレのヤツは違うぞ。なんつうか、人間様の知恵による華麗な戦略ってやつだ!」 「グォオオ……」 「たくっ。馬鹿力にも程があるだろ……って、あれ?」  一進一退を続ける押し合いの中、アルフレッドは何かに気付いた。大口から聞こえるのは声ではなく、吸い込む音だということに。脳裏に浮かんだ懸念は的中。彼の全身を覆うオーラが揺らぐのは、答えを保証するかのようだった。 「こいつ、オレの魔力を……!」 「グォオオォン」 「テメェなんざに食わせてやるかよ、フザけんな!」  アルフレッドは唐突に力を抜いて均衡を破った。前進しようとするナマズの身体を潜り込み、すかさず腹を強く蹴り上げた。そうして標的を高々と吹っ飛ばしたのだが、攻撃は終わらない。ここからが見せ所である。 「久々の全力を見せてやるよ」  伸ばした左手で照準を合わせ、右手に魔力を込めた。だが濃紫に染まったオーラは滑らかに深紅へと移り変わる。不器用なアルフレッドが持つ、数少ない攻撃魔法であった。 「爆ぜろ、炎龍ーーッ!」  猛々しい声と共に拳が振り抜かれ、魔法は放たれた。それは紅蓮の炎よりも紅い。矢のように空を駆けると、やがて飛龍の形を模して、ナマズの巨体へと襲いかかった。  直撃、そして大爆発。地上にまで轟音が鳴り響き、圧し潰すような熱風が吹き荒れた。効果は絶大。規格外の威力は、規格外の化物すらも打ち倒すのに十分なものであった。 「はぁ、はぁ、やったか?」  さすがのアルフレッドも息を切らした。しかし健闘の甲斐あって無力化に成功したのだ。ナマズは空からユラユラと流されつつも舞い降り、やがて巨体が地面に横たわった。 「リタ、こっちは終わったぞ!」 「お疲れ様。あとは任せて」  リタが両手にオーラを灯しながら駆け寄った。それは青白い輝きで、何か神聖なものの気配を感じさせた。 「いくわよ。アルフは離れて!」  彼女にしては珍しく語気が荒い。正念場なのだ。  リタは指先で宙をなぞると、ナマズの下に幾何学的な模様を生み出した。円形をベースとし 、細かな術式の描かれる魔法陣だ。緻密に動く指先、随所に込められた魔力の具合も正確で、雑な兄ちゃんには不可能な技だと見て取れる。  そして完成を迎えると、魔法陣は青白く発光し始めた。それは指向性を持つ光となり、青空に向かって一直線に伸びていく。 「おおスゲェ。こんなの始めて見たぞ」 「クッ……マズイわね。私も魔力を吸われてたみたい……!」 「どうしたんだよ、しっかりしろよ!」 「ごめんなさい。魔力が足りないわ。アルフに封印魔法の心得は?」 「あると思うか。つうか何だよ、失敗するってのか?」 「このままだと厳しいわ。せめて魔緑石でもあれば……」 「何だよ魔緑石って知らねぇよ」  にわかに慌てだす2人だが、そこへ場違いな程の声が空から降ってきた。翼を広げたアシュリーが飛んで来たのである。 「おぉーーい、お兄さぁん」 「アイツは! 何しに来やがった」 「えへへ。例の石はどこにも無くって、えへへ。そんかわし、ちょいと珍しくて高価なヤツ見つけたんで、これでどうにかお願い出来ませんかね?」  アシュリーは降り立つなり内股になり、小首を傾げて媚を振りまいた。そして差し出したのは、緑色の亀裂が走る薄汚れた石だった。それを眼にしたリタは通る声で叫んだ。 「私にちょうだい、早く!」 「えっ、あぁ、はい。まいどありぃ」  リタの手に石が渡ると、魔法陣の光は一層の輝きを見せた。立ち昇る光の柱も天を貫かん程に高くなる。 「いくわよ、悪鬼封陣!」  耳を突く甲高い音、きらめく閃光。瞳に白い刺激が押し寄せる。それが収まった頃、主の巨体は消え去っていた。 「成功、したんだよな?」 「えぇもちろんよ。ホラ」  リタが手のひらを差し出すと、その上でフヨフヨと飛ぶ小魚の姿が見えた。 「何これ」 「さっきのツチナマズよ。大地との繋がりを絶って、魔力も放出させたの」 「へぇ。本当はちっさいのか」 「そうよ。何の縁か知らないけど、地脈を悪用する術を得てしまったのね」  その時、一迅の風が吹いた。地形に沿って吹き付けると辺りの様子は一変する。腐食した大地は生気を取り戻し、青々とした草原に変貌した。汚泥に塗れた小川は清らかになり、枯れ果てた木々も生き生きとした枝葉をつけ、瀕死の鳥たちも大空に向かって自由に羽ばたいていった。 「おぉ、こりゃスゲェな。豊穣の森が元通りになったのか?」 「まだ安定してないけどね。荒れ地よりはだいぶマシでしょう」  これまでの光景に比べれば楽園そのものだ。腐臭も草花の芳醇な香りに変わっており、アルフレッドはその場で寝転んで深呼吸した。 「さてと。怪物もブッ倒した事だし、シルヴィ達と合流して今日は休もう。死ぬほど疲れたぞ」 「あら、休むには気が早いんじゃないかしら?」 「何だよ、もう仕事は終いだろが」 「折角だから家を建てましょう。それから井戸、お風呂も欲しいかしら」 「欲しいかしら、じゃねぇよ。死ぬほど疲れてるって言ったろ」 「そう、じゃあ今日も野宿なのね。うん、地脈の不安定な所で、犬人族の女の子が野宿。これって平気だったかしら……」 「おいちょっと待て。今何つった?」 「ううん、ごめんなさい。ちょっと独り言を……」 「隠し事すんじゃないよ、仲間だろ。だからサッサと白状しろよオラ」  リタの背後から詰め寄るアルフレッド。そして更に、アシュリーまでもが割って入るので、会話はいくらか混沌としたものになる。 「あのぅ、お取り込み中すんませんけど、アタシは役に立ちましたよね? 手柄っちゃいましたよね? だから仲間に入れて欲しいんですけど」 「おいリタ。さすがに破裂するっては嘘だろ。聞いたこともねぇぞ」 「うん、だから万が一の話ね。ほぼ安全だとは思うけど、いざ問題が起きたら対処出来ないわよ」 「お前……その言い回しは汚ねぇぞ」 「あのぅ、聞いてます? アシュリーちゃんの言葉届いてます? 今なら大サービスでチクビつまみゲームを楽しめるんですけど」 「まぁ平気よね。ごめんなさい、心配するあまり、確率の薄い懸念を喋っちゃって。十中八九シルヴィは安全だから、今日はもう休みましょ」 「分かったよ、やるよ、建ててやるって。その代わりお前もキッチリ手伝えよな」 「そりゃあモチロンですとも。期待しててね」 「いやいやいやアナタ達。ちっとばかしアタシを見てくださいな。垂涎の美少女が無防備にも大売り出し中なんですよ?」  緑豊かな草原を歩く2人、それを追う翼人。豊穣の森で鳥たちが美しい声を奏でながら、去りゆく人々を見送った。まるで祝福の歌でも捧げるかのように。
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