偽りの車窓③

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偽りの車窓③

「んっ……ぁぁ……あっ…アッ…あっ…もっとおぉ……」 「はぁ……ユーリ……」  わざといいところを外して中を浅く擦ってやると、ユーリは頭を振って切ない声を上げた。 「いじわる…しないで、おねが…おねがい」 「ふふっ…可愛いユーリ、どうして欲しいの?」 「欲し…欲しいよ……もっと…おく…擦って……」  涙を流しながら俺に縋り付いてくるユーリを見るだけで、達してしまいそうになるのをぐっと堪えた。  まだだめだ、もう少し……。 「ユーリ、ちゃんと言うんだ。今ユーリの中にいるのは誰?」 「……ラン、……ミラン」 「良い子だ。じゃあ、いつもみたいに言ってごらん」 「ミラン…すき、……ミラン…お…れの……ナカ……いっぱい…ください」  上手に言えたねと言って俺はユーリの足を掴んで、一気に激しく腰を打ちつけた。 「あああっ……くっぁ…あっ……ミラン……」  ユーリの良いところも、そのもっと奥も、めちゃくちゃに激しく擦って、ベッドが軋むほど激しいピストンを繰り返した。  ずっと焦らさせていて、一気に快感が押し寄せたからか、ユーリは意識を飛ばしながらガクガクと揺れて達していた。  びゅうびゅうと飛んだ白濁が自らの顔にかかっても気づかないくらい、トロけた顔で俺を見つめてきた。 「ユーリ…ユーリっっ」  俺も耐えきれなくなり、ユーリの腰を持ち上げて深く挿入し、一番奥で放った。  頭が真っ白になるくらいの快感に包まれて、射精してまだ足りず、ユーリの唇に食らい付いて上からも下からも熱を注ぎ込んだ。 「はぁ…はぁ……ユーリ……」  さんざん舐め尽くして顔を離すと、ユーリは意識を飛ばしていて、ぐったりとシーツの波に沈んでしまった。  名残惜しい気持ちでズルリと引き抜くと、放ったものが一緒にドロリと出てきた。  それをうっとりと眺めた後、指に絡めて、ユーリの中に入れてナカに戻し入れた。 「おいそれ、悪趣味だからやめろ。気絶するまでヤるなんて、まったく……」  ベッドの横の机で書類を眺めていたシオンが、書類を投げるように置いて呆れた声を上げた。 「いいだろう、残さずユーリの中に全部入れたいんだ。そういうお前こそ、俺の前にさんざんユーリを鳴かせたくせに」 「俺のはミランみたいにしつこくない。ただたっぷり可愛がるだけだ。ほら綺麗にするからどけっ」  水桶から布を絞ったシオンがユーリの汚れを拭き始めたので、俺もユーリのシャツを手に取って着せた。  滑らかな肌に残った赤い印を見るたびに安心する。ユーリが起きたらもっと付けようと思いながらボタンをしめた。 「一緒に寝るだろう?」 「ああ」 「ユーリが寂しがっていたよ。シオンは忙しがっているくせに、全然仕事を回してくれないって」 「………」  ユーリを挟んでシオンもベッドに入ってきた。情事の後に、三人で抱き合って眠る。  俺もシオンもこの瞬間が一番幸せだと思っている。  世間には理解されない関係、そんなことはどうでもいい。  この幸せを守る為に、俺もシオンも全力を尽くしてきた。 「分かっているだろう、ユーリを外へ出すということは……」 「心配なのは分かるけど、逆に目の届くところに置いた方がいいかもしれない。最近、グレイシー家の内情を探ろうと虫が入ってきてね。すくに処分したけど、嫌な予感がするんだ」 「………こっちもだ」  眉間に皺を寄せるのがシオンのくせだが、それが一層深く刻まれているのを見て俺は体を起こした。 「……どういうこと?」 「どうやら、社内の情報を探られた。盗まれたのは大した書類ではなかったが、ライバル会社にしてはやり口がおかしい」 「………へぇ、いい度胸だね、俺達に挑むなんて。今入り込んだ虫の出所を探らせている。まぁ、捨て駒だとは思うけど、何か収穫があるかもしれない」 「俺の方も追跡している。こんな調子だから余計に仕事が増えたし、怖くてユーリを連れて行けない」  周囲にうごめく不穏な影、俺達二人の唯一の弱点はユーリだ。  いっそ閉じ込めてしまおうかと思いながら、ユーリの頬を撫でた。 「んっ……」  わずかに声を上げて、穏やかな顔で眠るユーリは俺達の天使だ。  二人から愛を受けるようになって、初めは薄汚れていたのに、今では鮮やかな蝶になってしまった。  その輝きに魅せられて、次々と虫が寄ってくるのを、ユーリが知らないうちに全て排除している。  大丈夫、守り抜いてみせる。  そのためにはもっと頑丈で大きな檻が必要だ。 「そういえば、町へ出かけたユーリの帰りが遅かったと聞いたが……」 「例の医者のところへ出かけたんだよ」 「なんだって!?」 「俺は議会で行けなかったから、ジェイドを付けているし、他にも何人か付けたよ。体の不調があった時の相談をしていたら、眩暈がして少し横になったらしい。すぐに回復したとジェイドからも聞いている」 「ユーリは何と言っていたんだ?」 「話を聞いてくれて、いい先生だったと言ってた」  シオンは気に入らないという顔をして目を細めていた。列車の中でユーリが仲良くなったという男、探らせたが特に身分に問題はなかった。  健康の相談ができる人が欲しいとユーリに説得されて、診察を受けに行くことを許可した。 「それは……ますます怪しいな」 「だろう、俺達のユーリに近づいて、何の興味もなさそうな男……ありえないよ」  屋敷に戻ると、少し帰宅が遅れたというが、いつも通りユーリは笑顔でお帰りなさいと出迎えてくれた。  ジェイドから報告を受けて、持ち帰ってきた薬も特に問題ないものだったのも確認している。 「お前のことだ、何か考えがあるんだろう?」  月の光を浴びてシオンの瞳はギラリと鋭く光った。  それを見ながら俺もニヤリと笑った。 「バカなだなぁ、お前は…。皿の上にご馳走が載っていたのに、味見もせずに帰すなんて……」  ドカンと音を立てて大男がソファに沈み込んだ。顔は戻しているが、まだ女装をしているのでとても見れたものではない。 「さっさと着替えろよ」 「ははっ、意外と似合うだろう? シュナイ人の老婆はこういう陰気な場所にはぴったりだ。やはり俺は女装の方がしっくりくるな」  女装と言っても老婆だ。デカい体は隠しようがないので、とても美しい令嬢役などは任せられない。  ふざけた兄の姿から目を逸らして、今日起こったことを思い出しながら、俺は酒の入ったグラスを傾けた。 「ショックだったか? やはり俺の言っていた通りだっただろう。あれはどう見ても抱かれている体だ。双子の情人、まさに魔物に相応しい色気だったな」  高いアルコールの酒をぐいっと一気に煽ったら、兄のヴィッセルはピュウと口笛を吹いた。 「それがなんだ? あの人の清らかな美しさは少しも変わらない」 「正気か!? 本気であれを奪うつもりか? ジーオイルを標的にするのはいいが…、人間はウチの専門外だぞ」 「……今回儲けた金は全部ヴィッセルにやる。どうしても……あの人が、ユーリが欲しい」  空になったグラスを机に転がしてヴィッセルを睨みつけるように見たら、明らかに嫌そうな顔になったヴィッセルは大きなため息をついた。 「おいおい……やっと本気になったと思ったら他人の玩具なんて……、なんでそんな面倒なものに手を出そうとするんだ? さっきも言ったが、ここに呼んで、薬まで飲ませて診察して、目の前にいたのに何もせずに帰すなんて……」 「今日呼んだのは確かめるためだ。俺の運命の人かどうか……。列車で一度会ったきり、もう、気持ちが薄れているならそれまでだと思ったからな。でもそんなことはなかった。姿も匂いも、指先の動きまで目が離せなかった。あの白肌には俺の痕を残したい。魔物は双子だよ、あの双子に囚われているんだ……俺が……俺が助けないと」  重症だなと言いながらヴィッセルは頭をかいた。  もともと良いところの坊ちゃんだったヴィッセルには、この俺の渇望が理解できないのだろう。  俺とヴィッセルは本当の兄弟ではない。  俺はもともと貧民街の生まれで、両親の顔も名前も分からない。  他の孤児達と一緒に育ち、物乞いや盗みをして生きてきた。  年中糞尿の臭いが体中に染み付いた、クソみたいな暮らしから抜け出したのは、ある出会いがあったから。  人混みに紛れてひとりの紳士の財布盗んだ俺は、誰もいない所までひっそりと逃げたつもりだった。  しかし、追いかけてきたその紳士に捕まってしまった。  孤児といえど、窃盗は両手の切り落とし、それは死を意味している。  終わりを覚悟した俺だったが、ウチへ来ないかと誘われた。  殺されるならどこでも同じだとその男について行くと、連れて行かれたのは豪華な屋敷だった。  男の名はノナルド・スペンサー。スペンサー男爵として知られていて、町の上役をして治安維持に努めている男だった。  善良な顔をしているが、その実態は犯罪組織のボスだった。  俺はスリの腕を買われて、男爵の下で働くことになった。  そこで出会ったのが、俺より少し上くらいの少年、ヴィッセルだった。  もともと金持ちの家の息子だったヴィッセルだが、両親が事業で失敗して借金を負って一家離散。  流れ着いたのが男爵の元だった。  歳も近く、ヴィッセルとはすぐに打ち解けて弟分として一緒に犯罪に手を染めることになった。  組織の中ではありとあらゆる事をやらされた。  他にも同じような子供がいたが、悪事の才能があったのは俺とヴィッセルだけだった。  いつの間にか大勢いた子供は消えて、残った俺とヴィッセルを男爵は後継者として自分の養子に入れた。  兄と弟となった俺達は、男爵の元を離れて各地を渡り歩き、荒稼ぎすることになった。  汚いことでも躊躇いなくなんでもやるが、主に詐欺で稼いできた。  様々な名前や顔を使い分けて、あらゆる身分も金で揃えた。  ターゲットに近づき変装して惑わし、あらゆる手を使って全て根こそぎ奪い取る。  それが俺達のやり方だった。 「俺みたいに適当に女で遊んでいれば良かったな。奪うやつが奪われてどうするんだよ。そんなにのめり込んで知らないぞ……」 「……うるさい、それより、あの使用人の方はどうだ? 上手くかかったのか?」 「ああ、それはもちろん。かかりやすい男だったから難なく終わった」  そう言いながらヴィッセルは得意気に胸の上で組んだ指をくるくると動かした。  スペンサー男爵は催眠術を得意としていた。  ヴィッセルは男爵から直々に指導を受けた中で、一番才能を開花させた。  人によって効果に違いは出てしまうが、上手くいけば意のままに相手を操ることができる。  ユーリに付いてきた使用人には催眠をかけて、念のためここでの事は忘れるようにしてあった。 「だが、順調とは言えない。ジーオイルの方だが、あれだけ急成長したから何か埃がありそうだと思ったが、守りが固くて大した情報は得られなかった。グレイシー家に送り込んだスパイは連絡が途絶えたし、なかなか手強い相手だよ」  各地に組織の人間が散らばっているので、金を渡してスペンサーの名前を出せば協力者は腐るほどいる。 「どれだけ金がかかってもいい。糸を張るんだ。やつらが身動きできなくなるように……。そして、手繰り寄せる。蝶はもう俺の作った糸に絡まっている。後はじっくり引き寄せるだけ……」 「ははっ……本当の魔物はどちらなんだろうな」  俺の顔を見たヴィッセルが乾いた笑い声を上げた。  転がったグラスを見ながら俺は、決まっているだろうと言って笑った。  □□□
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