02,Viper of crimson

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02,Viper of crimson

「あぁ暇やなぁ」 空中に浮かびながら仰向けに寝転がる。 レベッカ、通称ベッキーの魔法は所謂サイコキネシス。 魔力を駆使して物を動かしたり、自身も宙に浮く事ができる。 「be bored……」 「特に仕事も無いしねー」 「ほんまやわぁ。エリー、しりとりでもしよか」 「えー」 「めっちゃ暇やねん、やろうやぁ」 「暇暇」とゴロゴロするベッキーにエリーは「うるさいよー」と一喝する。 「No,ごっつ暇すぎや」 昼寝でもするかと空中で目を閉じかけた時、 「「幸せそうだね」」 同じ声が二重で聞こえた。 声の主を見てみると久々に会う2人がいた。 「イル!エル!帰っとったんか!」 「うん」 「今帰宅」 「おかえりーイルエルー」 「「ただいま」」 双子の魔道師。妹のイル、兄のエル。 2人とも見た目はベッキーと変わらないくらいの幼い顔立ちだ。 もちろん二卵性双生児だが、見分けが付かないほど似ている。 「ボスは?」 「ワイン買いに行ったで」 「「ふーん」」 双子はコンマのズレも無い程同時にまたかと頷く。 「お!双子じゃねぇか!帰ってたのか!」 「エディ、相変わらず耳障りな声だね」 「な……!」 矢のようなものが頭に刺さった気がした。 エディは真っ白になり「耳障り……」と肩を落とす。 「にゃはは!自分らも相変わらず"紅の毒蛇"健在やな!」 2人は可愛らしい顔に似合わず毒舌家。 『紅の毒蛇』とは二人の通称で、紅い髪と瞳を持ち毒舌を吐く事から付けられた名だ。 「あ、」 ギルドメンバーに不変の対応をしていたイルは近づいてくる騒がしい足音に気付く。 「チャーオ!」 ワインをしこたま買えてご満悦のベルーナが戻って来た。 隣には義姉のララもいる。 どうやら2人で買い物に行っていたようだ。 すぐにイル達の存在に気付くと更に嬉しそうな顔をして近づいてくる。 「おかえり」 「おかえりなさい、イルちゃん、エルくん」 「「ただいま戻りました」」 ララとベルーナはそれぞれ2人の頬にキスをする。 「ボス、これ報告書です」 「ん、ご苦労様」 3枚ほど今回の仕事についてまとめたものを渡す。 ベルーナはそれをパラパラ確認すると魔法を使って自室に移動させた。 「そういえば、"西"の中でも特にお前たちは優秀だと褒められたぞ。でも偉い人にまで毒吐くのはやめてくれ」 「僕たちは使命を全うしてるまでです」 "西"とはこのギルド『ZEPHYROS』の事。 ギルドは4つ存在し、西の他に、北の『BOREAS』南の『NOTOS』東の『EUROS』がある。 ギルドでは魔道師に様々な仕事を紹介してくれるので殆どの魔道師はギルドに所属している。 それぞれのギルドには所属を示す紋章があり、 ZEPHYROSは天使の羽が十字架を包んでいるような紋章だ。 紋章はアクセサリー形式になっており、ペンダントやピアス等個々で工夫し身に着けている。 「イルちゃん、エルくん、疲れてない?少し休んだ方がいいんじゃないのかしら?」 「いえ、大丈夫です」 「そんなにハードな仕事でも無かったので」 「さすがやなぁ」 小柄な割に体力がある2人にベッキーは感心する。 横でベルーナは先程買って来たワインの袋を漁っていた。 「じゃあ、イルエルのおかえりなさいパーティでもする?」 そう言って"Romanee-conti"と書かれたワインをテーブルに置く。 「毎回そんな事しなくていいですよ」 「大袈裟です」 「ええやん!やろうや!」 「嫌なら無理強いはしないけれど、どうかしら?」 ララもベルーナに賛成のようだ。 イル達はベルーナにも毒舌を吐く事が多々あるが、ララには一度も無い。 というのも、少し心配性な面を除けば完璧な人だから。 何より、この美しすぎる微笑みに勝てる者はそういない。 「「ま、いいですけど」」 このギルドでは誰かがクエストと呼ばれる仕事から帰ってくる度にパーティを行っている。 メンバーは一人でも欠けてはいけない、だから無事に帰って来られた事を祝うのだ。 「料理は私が作ろう!」 「やたぁ!ベル姉の手作り料理やぁ!」 数時間後。 「おかえりー!!」 「「アル、うるさい」」 「はぅっ!」 言葉が心に突き刺さった。 明るく迎えたのに容赦のない双子。 「ベルーナ、また料理が上手くなったんじゃない?」 「そうか?」 「ええ、とっても美味しいわ」 「ありがとう、姉様」 テーブルには様々なパスタやマルゲリータピザ、カルパッチョなどのイタリア料理が並んでいる。 「ほんま美味しい!」 「ベッキー、ちゃんと手で食べなきゃダメだよ」 ベッキーはサイコキネシスを使って自身の周りに料理を浮かせて食べている。 リーニアが注意するが「ええやんええやん」と手を止める気配は無い。 「……ねみぃ……」 「ガイア、また寝てたのか?」 「まぁな……ふわぁぁ……」 ガイアは半分眠りそうになりながら大欠伸をする。 それを見たエリーが同じくらい眠そうな目をして2人の顔を覗き込む。 「でー、イル達はどんな仕事に行ってたのー?」 「「"アンノーン"退治。ちなみに日本」」 「へぇー」 「おお!日本ええ所やんな!うちももっかい行きたいわぁ!」 エリー、イル、エル、ベッキーの子供組がアジアトークに花を咲かせ始めた時、 ララは何かに気付いた。 「あら、何だか最近日本が多いわね……」 呟く程度の声は隣にいる義妹にしか聞こえなかった。 「妙だろう?最近、アンノーン達が出現するのはほとんど日本なんだ」 「どうしてかしら?」 ベルーナは手にしていたワインを一口飲む。 「そういえばこの間のマスター集会、"東"のあいつ、来ていなかったな……」 「え?」 集会の様子がフラッシュバックする。 記憶を辿っているとベッキー達と会話していたイルの声のトーンが途端に下がった。 「変な敵だった」 「変?」 「泣きながら攻撃してくるんだよ」 エルがパンを千切りながら言う。 「そらあらへんやろ!"アンノーン"ってこの世に未練がある霊から成る感情の無い生命体やねんで?」 「でも泣いてる……気がした」 「変なのー」 イル達の話を聞いて、ベルーナの心にはますます引っかかるものがあった。 だが折角のパーティだし、重い話はしたくない。 「ま、堅苦しい話はやめて飲もう!」 「せやね!ベル姉、これめっちゃ美味しい!」 「喜んでもらえて嬉しいよ」 何事も無い、こんな平和なギルドが一番幸せだなと、ベルーナは思った。 これがずっと続けばいいと。
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