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01,Mage&Guild
「はぁ……今日も怒られた……」
腰まである長い金髪の女、ベルーナ・ステラルーチェは溜息と同時に俯き、トボトボと歩を進める。
「こんばんは。ステラルーチェ様」
そんな彼女に声を掛けたのは怪しい雰囲気が漂う黒ずくめの男。
鼻までフードで隠れていて表情は読めない。
「ああ、お前か」
ベルーナは男を見るなり、安堵したように笑顔を浮かべる。
「行き先はギルドでよろしいですか?」
「勿論」
黒ずくめの男が持っていた杖を天に掲げると、ベルーナは眩い光に包まれ、一瞬で建物内の様な場所に移動した。
そこでは数人の老若男女が騒いでいた。
刹那、「あっ!」と高くは無いが幼い声が響く。
「ベル姉、おっかえりー!」
独特な訛りの少女・レベッカがこちらに気づくなり大きく手を振って来た。
オレンジに近いショートの茶髪は毛先が外側にぴょんぴょん跳ね、背は小さく顔も幼い。
その声を筆頭に全員が彼女の存在に気付く。
「おかえりなさい!マスター!」
「マスター、お疲れ様です!」
「おかえりー」
"マスター"とはベルーナに対する呼び名。
温かい言葉達に思わず笑みが零れた。
「ただいま」
此処は魔道師ギルド『ZEPHYROS』
殆どの者が魔道師、所謂"魔法使い"だ。
「マスター集会やったんやろ?どやった?」
「どうもこうも……」
「お嬢!おかえり!」
「ただいま、アルバート」
再度溜息を吐きかけた時にひょこっと現れた190cm近くの長身を持つ男、アルバート・ブラッドレイ。
ツンツン跳ねた髪は右のモミアゲだけ顎まであり、シルバーアクセサリーが巻いてある。
ベルーナの事を"お嬢"と呼ぶ。
「アル、お前また"南"の女の子ナンパしたらしいな」
「うげっ……ち、違うよ!ナンパじゃなくて、今度食事でもって言っただけ!」
「それをナンパっちゅぅねん!アホやなぁ!ほんまアホや!」
「そ、そんなに悪口言わないでっ!」
次はアルバートと口論になりかけたレベッカに視線を移し、腕を組む。
「ベッキー、日本で任務そっちのけで温泉を楽しんでいたというのは本当か?」
「ななな何でそない……!ちゃうねん!ちょお休憩しとっただけやねん!」
全て先程の集会での情報だ。
このような事項ばかりの為、他のギルドから苦情やら何やらで毎回重荷だ。
ベルーナは先程よりも一層大きな溜息を吐いてしまった。
「ベッキーも人の事言えないじゃん!」
「う、うるさいわ!」
懲りもせず口論になろうするアルバートとレベッカ。
こんな時は、とベルーナは眼を伏せ、より強い声色を出す。
「お前達、次やったらビッグ・ベンの鐘の音、小鳥の囀りにするからな!」
「「やめてぇぇぇ!!」」
二人ともUK生まれUK育ちのUK人なので、この脅しはなかなか効くようだ。
「……おい、うるせぇぞ……少しは寝かせろ……」
「あ、ガイア!」
銀髪の頭をボリボリと掻きながら欠伸をするガイア。
今の今まで寝ていたらしい。
元々騒がしかったが、耳元で叫ばれ目が覚めてしまったようだ。
「ガイア、任務に行ったのではなかったのか?」
「あんなのとっくに終わったっつの」
「ほぅ、さすが」
「まぁな」
ガイアは誰よりも冷静で感情や表情に波が無い。
故に冷徹、とも言われている。
「あぁ!ずっこい!ガイアばっかり誉められるんずっこい!」
「いいから静かに寝かせろ」
「自分は寝すぎやねん!いつまで寝る気やねん!」
「ガイアは8割寝てるよね」
「ほっとけ」
アルバートとレベッカの言葉なんて気にも留めず、
「うるせぇうるせぇ」と言いながら再びテーブルに伏せる。
「ちょお、また寝るん?!もうええやん!起きろや!」
「いいんだよ、静かにしてろ」
「おやすみ、ガイア!」
「いやいや、もう4時間くらいシエスタしとるやん!」
またギャーギャー騒ぎ出す3人。
仲が悪いわけではないが普段から言い争いが絶えない。
ベルーナは苦笑いしつつ、微笑ましい気持ちもあった。
「んなら永遠に眠らせてやろか!」
「やれるならやってみろ」
「何でそうなるの?!ちょ、ちょっと、やめようよ!」
アルバートは多少の口答えはするものの、基本的に争いは好まない平和主義だ。
「サイキック・トルネード!!」
ベッキーは高く飛ぶとドリルのように素早く回転しながらガイアに突っ込む。
ひらりと軽く躱すと、その攻撃により床やテーブルが破壊され破片が四方八方にぶっ飛び、無関係のギルドメンバーにも多大な被害が及んだ。
「うわぁ!!ベッキー何してんだよ!」
「またガイアとベッキーとアルバートがじゃれてるよ!」
「ベッキーとガイアだけだよ!俺関係無い!あとじゃれてない!」
ガイアもベッキーに反撃し始め、被害は大きくなる一方だ。
「わわ!誰か止めなきゃ!」
「やらせときなよー」
「何でそんなに冷静なの?!エリー!」
「マスター止めてください!」
「仲が良いのは良い事だ」
「マスター?!」
2人の喧嘩を止める為に他の者も攻撃を始めた。
チュドーンと何かが爆発する音が聞こえる。
ギルド内はどんどん破壊され荒れていく。
自分のギルドが壊れているにも関わらず、こんなのは日常茶飯事の為ベルーナに止める気は無い。
「リーニア!何とかして!」
「俺じゃ無理だよ!……エディ!」
「おいおい!ベッキーの魔法苦手なんだよ俺!」
「イル達は?!」
「昨日から任務……あの子達なら止められるのに!」
そんなギルドメンバーを後目に、ベルーナは先程の集会で他のギルドマスターにもらった紅茶を飲んでいた。
「意外に美味しい」
「あぁ!マスターがティータイム始めちゃった!」
「それでこそマスターな気もするけど……」
「でもどうするのこの惨事ぃぃっ!」
手が付けられないと混乱する中、コツン、とヒールの微かな音が聞こえた。
現れたのはオーシャンブルーのウェーブヘアーのとても淑やかで美しい女性。
「お止めなさい」
ピタ。
たったの一言で、大荒れだったギルド内が静まり返った。
女性は真っ直ぐに歩いて行くと紅茶を啜るベルーナの横に立つ。
「おかえりなさい、ベルーナ」
「ただいま、ララ姉様」
「ベルーナ、"あれ"はどう?」
「……まだ、何も……」
「そう」
姉様と呼ぶものの、血は繋がっていない、義理の姉妹。
ララはベルーナの頬にキスをすると先程まで騒がしかった方を見る。
「元気なのは良いけれど、程々にね」
柔らかい雲のようにふわっと笑うララに皆が皆見惚れる。
「せやなぁ、うちもちょい熱くなりすぎとったわぁ」
レベッカが恍惚の表情で席に戻ったのを皮切りに、
落ち着きを取り戻した場にほっとするアルバートとリーニア。
とりあえずまたテーブルで寝る体制に入るガイア。
今日も荒れたなと振り返りつつ苦手なレベッカと手合わせしなくて良かったと安心するエディ。
午後ティータイム継続中、ギルドマスター、ベルーナ。
ギルド『ZEPHYROS』はこんな奴らの集まりだ。
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