思い出してはいけない話

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 別に俺は、そういった話は好きではない。ただ暇だったということもあり、隣で目を輝かせるホラー映画オタクの柳と一緒に、部長の話に耳を傾けた。 「どんな話だったっけ?」 「えっと、あんまり覚えてないな。柳さんの方が、熱心に聞いてたでしょう。忘れたの?」 「ううん。なんだか、記憶がぼんやりしちゃってて。実は、部長からその話を聞いたことも、今日まで忘れてたんだよね」  酒で薄く赤らんだ首を傾げる柳に、俺も適当な相づちを打った。  部長は先週末に病気で倒れ、今も入院している。飲み会でも、部長の身を案じる話題が出た。きっと柳は、それがきっかけで思い出したのだろう。 「不思議だよね。私、そういう話大好きだから、聞いたことさえ忘れるなんて、今までなかったのに」  しかも、内容がほとんど思い出せない。  悔しそうに唇を尖らせる柳に、確かにな、と俺も頷いた。 「確か部長が、学生時代の話で……」 「あ、そうだっけ。なんか、心霊スポットに行ったんだよね。トンネルだっけ?」 「廃墟、じゃなかった?」 「あー、そっか」  不思議なことに、お互いに断片的なことしか覚えていなかった。片方だけでは不十分で、二人の記憶を繋ぎ合わせることでようやく、話が出来上がっていく。  酔っ払いの増えた夜の道。ときどき耳を刺す喧噪の中を歩きながら、部長の体験談を紡いでいった。
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