私のトリカゴのあの人

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みんなはいつだった?普通はいつ見つかる? 僕はすぐに君を見つけた。 幼稚園、桜組の君。小学校では一度も同じクラスになれなかった。いつも君は誰かを探してた。僕はここにいるから、いつも君の側にいるから。そんなことは一度も言えなかった。 中学なんて部活終わりの校内は待ち合わせだらけ。靴箱の前でサッカー部のキャプテンと待ち合わせていたバレー部の子は、2年の時僕に告白してきた。バレンタインのチョコをもらったこともある。だけど思い切り走ってうちに帰ったら、チョコの味もその子の顔も忘れてしまった。 残ったのは靴箱で友達と話していた君の声だけ。 僕は君に見つけて欲しくてたまらなかった。 僕から教えてあげるのは違う気がした。だから近づき過ぎないよう意識してた。人生の目標はもう決まっていたから。 だけど何?この感じ。君はいつも誰かを探してる。何か刺さったんだろうか、心がイガイガする。 クラスはいつもこの話、いるの、いないのって。黙れ!彼女の声が聞こえないだろ。お前らは適当に番っとけばいい。彼女が僕を見つけやすいよう前を広く空けておけばいい。 君はもう誰のことも探さないで欲しい。誰を見つけるためにそんなに首を傾けてるの? 遊園地に誘われた。6人って言ってたのに、待ち合わせ場所には女子が1人。お化け屋敷で手を繋いだし(繋がれた) 帰りに一緒にご飯を食べた。来なかった友達の話で盛り上がったし、頼んだスイーツもシェアした。教室にいる時より少し可愛く見えた。音楽の趣味が合うことが分かって、また会う約束をしてしまった。だけど駅から走ってうちに帰ったら少し可愛く見えたその子のことも、一緒に聞いたあの曲も全部忘れてしまった。 どうして見つけてくれないの?君はどこを探してるの? 初めての給料でクルマを買った。 オトナになった。(気がした) ホームで電車を待つ。みんな必ず来ると思って待ってるんだろ。エレベーターのボタンを押す。みんな上を見て待つ。上に何があるの? 僕といえば、いつこのクルマに君を乗せてもいいように、昨日も今日もそして明日も洗車を欠かさない。 昔一緒に遊園地に行ったって子から電話があった。「どなたですか?」って言ったら泣き出した。じゃあなんて言えば良かったの?全く誰だか分からないのに。 ほんとに全部探したの? 僕は諦めないよ。 「だからね、僕はずっと君が見つけてくれるのを待ってたんだ。かなり時間がかかったね。どこ探してるの、ってイライラしたよ」 「ねえ、そろそろお風呂に入ってもいい?」 「もちろんだよ。僕は君を見つけてから君と初めて話した日、今日までのことを話すから、君はそれを聞きながらゆっくり湯船に浸かればいいよ」 「のぼせてしまうわ」 「じゃあ続きはいつものように髪を乾かしながらだね」 私がお風呂に浸かっている間、この人は毎日同じ話をする。私を見つけた5歳の春から今日までのことを。70年物のこの話に私がうとうとし出すと、ドライヤーの風を近づけてくる。「熱い」と言うと、いるはずもない孫たちに向かって少し笑う。話が終わるまで眠ることはできない。お風呂から僕の元に帰ってくれてありがとう、と言われタオルで髪を包まれるたび息が止まる。 「僕のことを忘れてしまうなんて許さない。君が僕をみつけるために、他の道を塞いだのに。僕達には2人以外何もない。それでいい。2人になれるよう僕がどんなに頑張ったと思ってるんだ」 同じ話をされながら過ごすこの毎日が、私の髪を真っ白にしてしまった。 お風呂にゆっくり浸かったって、決してあの人は忘れさせてくれない。だけどあなたは私の好きな人じゃない。 分かって欲しくて、私も50年間同じ話を繰り返す。 「だからね、私はずっと好きな人を探してるの。好きな人、ってどこにいるんだと思う?」 あなたは私の探しものじゃない。
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