星流れる時に

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 高校の時の友人が「キャンプ同窓会」を企画したと言うので、今日は朝から東京駅発の新幹線に乗り、ここ新潟県の山間地までやってきた。高校を途中で転校した私にとっては、昔のクラスメイト達と会うのは約15年ぶりだった。バーベキューを終えた後の腹ごなしに、「ちょっと散歩してくる」と私が立ち上がった時、「あー、じゃあ俺も。このまんまじゃ腹いっぱいで寝られねぇ」と言ってついてきたのがハルだった。  月もない暗い夜だった。ここまで来る途中に、木々の間から遠くに薄暗い街の明かりが見下ろせる場所を通ったが、それ以外はただひたすら真っ暗な世界だった。それでも、目が慣れると少しずつ、周囲を覆う木々の形や前を歩くハルの影が見えるようになった。5分程、慎重に暗闇の中に続く登山道のような道を登り続けると、空が開けて周りに木々の無い丘のような場所に出た。開けた空には、今こうして私の目の前にあるのよりも少ない数の、今より少し輝きの鈍い星々が広がっていた。それは、私をその場に留まらせるのには十分な光景だった。  「わぁ――」と自然に声が出て、私はその場にしゃがみこみ、そして上を向いて寝転がった。私は、その星空が、時間が経って目が慣れるにしたがって、より美しく輝くことを知っていた。ハルは、何も言わずに、間にもう一人座れるぐらいの間隔を空けて、私の隣に仰向けになった。それから、私はそのまま視界に写る星の数がだんだんと増えて明るくなっていくのをじっと見ていた。そして、こうやって星空を見上げて流れ星を探す時はいつもそうであったように、あの時のことを思い出していた。  それは私が転校する直前の、高校一年生の夏休みだった。クラスの友達何人かとのコテージ泊の小旅行で、夜にみんなで近くの低山に登り、その頂上で思いがけず満点の星空に出会った。何人かは座って、何人かは寝転びながら、しばらくの間そこで流れ星を探しながら空を見つめていた。私とハルは、みんなから少し離れたところに隣同士でそこに寝転がっていた。  そのシーンは私の記憶に強く残っていて、私はそれ以来、夜の空に流れ星を探すたびに、その時のことを思い出す。周りに広がる暗闇、顔をかすめていく涼しい風、時折聞こえる友達の歓声、背中に感じる地面からの冷気、それ全体が一式の感覚となって甦る。    今日がいつもと違うのは、あの時と同じようにハルが隣にいることだ。星空をこうして見上げるたびに頭の中で繰り返されていた質問の答えを唯一知っている相手が、今ここにいる。そう思った次の瞬間、その質問は実際の声となってその相手に向けられていた。「ねぇ、覚えてる? あの時のこと、覚えてる? ハルにとって、あれは特別な時間だった?」  そして、もう答えが出ることは無いと思っていたその問いの答えを、私はついに得てしまった。
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