あの町を覚えている?

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 ミチロウはバルコニーで缶ビールを飲んでいた。 「あそこは良いところだったな」缶ビールを飲みほして、「幼稚園に入る前からだったな」 「あそこの団地は今でも人住んでいるの?」 「住んでないよ」 「跡地はどうなるの?」満にたずねられた。 「民間マンションでも建つのかもね」 「あそこの雰囲気は良かったな」 「昭和の団地だな」 「昭和か、なつかしいな」 「長房団地から出てどれくらいたつかな?」ミチロウはバルコニーから室内に入って、「タバコ吸って良い?」 「受動喫煙がいやだな」 「それじゃやめとくは」 「今夜の冷やし中華うまかったな」 「ありがとう」  ミチロウは、八王子市の長房団地から、南大沢のマンションに住むようになって二〇年たった。  これから多摩センター駅近辺のマンションに引っ越そうか、と考えていた。  もう夏と言っていいくらいに暑い日だった。六月の晴れた日の夜ミチロウは満に冷やし中華をつくり、満足していた。何の満足なのか分からなかったが。 「美穂子のこと、覚えてる?」ミチロウは空き缶を指定ごみ袋に入れそうになったが、気が付いてやめた。 「あの女は複雑だったな」満は笑った。 「あの人は真面目なんだよ」 「そうなの?」 「当たり間だよ」 「そうかね」 「真面目だよ」 「そういうことにしておこう」 「オレもむかしのことだから忘れているけどね」
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