3人が本棚に入れています
本棚に追加
ミチロウはバルコニーで缶ビールを飲んでいた。
「あそこは良いところだったな」缶ビールを飲みほして、「幼稚園に入る前からだったな」
「あそこの団地は今でも人住んでいるの?」
「住んでないよ」
「跡地はどうなるの?」満にたずねられた。
「民間マンションでも建つのかもね」
「あそこの雰囲気は良かったな」
「昭和の団地だな」
「昭和か、なつかしいな」
「長房団地から出てどれくらいたつかな?」ミチロウはバルコニーから室内に入って、「タバコ吸って良い?」
「受動喫煙がいやだな」
「それじゃやめとくは」
「今夜の冷やし中華うまかったな」
「ありがとう」
ミチロウは、八王子市の長房団地から、南大沢のマンションに住むようになって二〇年たった。
これから多摩センター駅近辺のマンションに引っ越そうか、と考えていた。
もう夏と言っていいくらいに暑い日だった。六月の晴れた日の夜ミチロウは満に冷やし中華をつくり、満足していた。何の満足なのか分からなかったが。
「美穂子のこと、覚えてる?」ミチロウは空き缶を指定ごみ袋に入れそうになったが、気が付いてやめた。
「あの女は複雑だったな」満は笑った。
「あの人は真面目なんだよ」
「そうなの?」
「当たり間だよ」
「そうかね」
「真面目だよ」
「そういうことにしておこう」
「オレもむかしのことだから忘れているけどね」
最初のコメントを投稿しよう!