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彼とは利害が一致しただけの、愛のない契約結婚のはずだった。
――なのに、いま。
「ねえ。
これはどういう状況なのか説明もらえる?」
こののしかかられた状態はまさに襲われる何秒か前。
「初夜だろ?」
さらりと言いのけ、困惑する私を無視して彼は顔を近づけてきた。
「えっ、あっ、ちょ……ん!」
強引に唇が重なり、すぐにぬるりと舌が滑り込んでくる。
思いのほか気持ちいいキスに溺れそうになりながら、なんでこんな事態になっているのか考えていた。
半月ほど前、私は契約社員で働いていた職場から唐突に契約解除を言い渡され、次の職場を探していた。
「そう簡単に見つからないのはわかっているけど」
コーヒーショップの一角でストローを咥え、甘ったるいストロベリーフラッペを吸い込む。
いつ新しい働き口が決まるかわからないいま、節約しないといけないのはわかっている。
が、たまには胸焼けしそうなくらいクリームたっぷりのドリンクで息抜きぐらいしないと挫けそうだ。
「あ、イチコだ」
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