二度目の庄司

2/15
667人が本棚に入れています
本棚に追加
/214ページ
 小さい頃に見たテレビドラマの家族は、母親は白いエプロンをしていた。一度も染めたことのないような艶やかな黒髪をハーフアップにして、清潔そうに切り揃えた爪で鍋をかき混ぜていた。 「お夕食出来てるから、手を洗って来なさい」と子どもたちに言った。男の子と女の子の兄妹は「はーい」なんて元気に返事をして遊んでいた手を止めた。  仕事から帰って来た父親が揃うと手を合わせて家族団欒を楽しんだ。 「今日学校でね」子どもの話に親が相槌を打って 「そうか、すごいじゃないか」と褒めた父親がつまらない冗談なんかを言って、母親が「もう、パパったら」と、諭す。  これが平均的な一般家庭だろうか。 「ママ、ここのお家はうちと違うね」  ドラマを見てそう言った私に母親が言った。 「あのねぇ、こういう理想的な家族像はね、うんっと古い考えのおじさんが作ってるのよ。CMなんかもそう。晩酌に品数の多い凝ったおつまみをどうぞってお母さんがお父さんに出すの。……おっさんの理想像押し付けるなよ。こんな髪型してる女、面接以外で見たことないわ」  母親は最後に毒付いた。一応、私に聞かさないように声のトーンを下げた形跡はあったように思う。 うちがその一般家庭に当てはまらないのはわかっていた。家族構成はドラマと同じように夫婦と兄妹だったけど、母親はいつも家にいなかったし、ドラマの母親のセリフはうちでは父親が放っていたからだ。  エプロンをして、大鍋をかき混ぜる。たっぷりのカレーは私と兄に合わせた甘口。カタチは違えど()()の家族だった。
/214ページ

最初のコメントを投稿しよう!