二度目の庄司

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 なぜなら、母親は小さな飲食店を営んでいるからだ。母の人好きする見た目と性格で“大”とはいかないが、それなりに繁盛していた。小さな店はいつも常連客が誰彼かまわず陽気に喋っていて、賑やかだった。    私たちが小さな頃は、仕事を終えた父が、私と兄を保育園に迎えに来て一緒に家に帰った。母の店は、夕方からはお酒も出すから母は客が奢った酒でいつもほどよく酔っていた。この酔った母を、父は私たちを寝かせたあとで毎日店まで迎えに行くのだ。父に稼ぎがあるのだから、母も夕方くらいに帰れる仕事をすればいいのにと思う。頑固な母は周りの意見を聞き入れない。  父も不満に思っているはずなのに、それに何も言わないのだから、呆れてしまう。毎日迎えに行くのだって、労力だろうに。  母は帰りは夜遅いし、朝も遅くまで寝ている。だからうちは母に代わって、父が家のことをしていた。一般家庭とは少し違うが、一般家庭には違いなかった。  ――だが、それから間もなく、一般家庭は崩壊した。私は幼かったので原因はよく知らない。ただ、父が不満を募らせたわけではないらしかった。  小学校に入る少し前、両親は離婚し、私は庄司(しょうじ)有希(ゆうき)から、母親の旧姓、大西有希になった。兄の向希は父に、私は母に引き取られたのだ。  すごくショックではあったが、今から思えばそうでもなかった。ここまではよくあることかもしれない。両親が離婚する家庭なんかは。
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