二度目の庄司

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 母の店は、かつて高校生だった母のバイト先だったらしい。高校生からそこで働いていた母に、店主の(とめ)さんが母の離婚を機に経営を譲ったものだった。留さんは、この頃は時々母の手伝いをする常連客のようになっていた。  ――父と離婚してからは、私の生活は変わった。学校から帰るとほぼ母の店で過ごしていて、留さんが宿題を見たり、遊んだりと可愛がってくれた。夜は、近所の祖父母の家で寝た。店で寝てしまった日なんかは、店の二階の留さんの家に泊めてもらうこともあった。こういう所、母は甘え上手だったと思う。    聞けば、留さんは、料理の下手な母親に料理を仕込み、マナーを教えた人らしい。何でも出来るおばさんで、頑固な母も留さんには素直だった。留さんの“留”とは源氏名らしい。この誰とでも話す話術から昔は水商売をしていたのかもしれない。とびきりの美人ではないが、愛嬌のある人で『モテモテだった』というのが、本人談。モテた割には独身なのだけど。まあ、いいや。誰も本当のことは知らないのだから。  お陰で私は寂しくなかった。 ――――――  ところが、小学校生活に終わりが見えはじめた頃、両親はヨリを戻した。 私はまた庄司有希になったのだ。人生で二度目の庄司。恋人夫婦と呼ばれるうちの両親は同じ相手と再婚した。母親と二人の家庭から再び父と向希と暮らす一般家庭に戻ったのだ。    両親が離婚した家庭は珍しくないかもしれない。だけど、別れたりくっついたりしてる家なんてうちくらいなものだろう。父と母は親である前に男と女であるのだ。私と向希だってもう子供じゃないんだから、それを恥ずかしいと思うことくらい考慮して欲しいってもんだ。思春期真っ只中の私はそう思っていた。  
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