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「違う。お父さんの子よ」
「へえ。何だ、からかったの? つまらな……」
「有希が、お父さんの子どもじゃないの」
「……え」
「そしてね、向希はお母さんの子どもじゃない」
頭が真っ白になるとはこのことだった。母は私の取り乱し様に、その場で父に電話をして、父はすっ飛んで来た。
「ちょっと、どういうこと。圭織ちゃん、有ちゃんが二十歳になるまで言わないって約束だったじゃない。ああ、ああ、有ちゃんびっくりしたよね? ごめんね、ごめん」
父は私をぎゅうぎゅう抱き締めたけれど、小学校六年生の私には到底受け止められることではなかった。
……ああ、本当にショック。お父さんがお父さんじゃないなんて。
父親は再婚するにあたり、私の生活が変わらないように、行くはずだった中学に予定通り通えるよう校区内に夢のマイホームを建てた。
夢のって、付くくらいの幸せを具現化したような家。日当たり良好の南向き八畳の一人部屋、ウォークインクローゼット付き。が、私にもあてがわれた。家具だって私の好きなものを新調してくれると言った。しなかったけど。いつも仕事でいない母親に代わり、父は毎日食事を作ってくれたし、私が起きると朝食だって出来ていた。父の卵料理のレパートリーは凄かった。
なのに、母親と住んでいた1DKの家よりも複雑になってしまったのだ。父の美味しい料理を「口に合わないかな?」って言わせてしまうくらい私はショックを受けていた。
私が物心ついた時から、私の父親はあの育ちの良いイケメンだった。運動会とか、絵画展とか、とにかくイベント全部に参加して、でっかいカメラでバシバシ写真撮って、至近距離でカメラをズームするという親バカぶりで、都度感動で泣いていた、あの人しか知らないのだ。
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