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向希に対しては同い年な分、気まずいけどそれなりに上手くやったと思う。本当の兄ならば。違うとなれば、途端にどうしていいかわからない。ただでさえ、多感なお年頃だった。物心ついた時から、父だし、兄だし全然変わらない。でも、二人の他人と住むことになったのだ。
向希が何でこんなに普通でいられるのかわからなかった。
「そう? 僕、また有ちゃんと一緒に住めて嬉しい」
ピュアッピュアの目で言われては、私は自分の目の濁りが濃くなった気がした。
タイムラグだ。そうに違いなかった。まだ受け入れ期に入ってない私に対して、向希はとっくの昔にこの事実を受け入れているのだ。つまり、私だけが知らなかったのだ。私たちが血が繋がってないということ。向希は離婚した時に知ったらしい。なぜなら、そうじゃないかって父親を問い詰めたからだ。だから向希は途中から私と父が会うのについてこなくなったのか。
――昔の写真を見返すと、確かにそうだわ、雲泥の差だわ。向希は昔から容姿に恵まれていた。可愛い子だ。可愛いな、しかし。私が特別劣っているんじゃなくて、向希が可愛いすぎるのだ。
しかも、再会してからも向希はいつでも優しかった。全然ひねくれずに育っていた。小さい頃のまんま。丁寧な言葉使いに、一人称は『僕』。かといって、気弱なわけでもなく、その品のよさが女子にもウケていた。
そりゃそうだと思う。あの父親が育てていたんだもん。私は時々、父と住みたかったなあと思ったもんだ。いや、実際口にしたかもしれない。父はイケメンで、多分あのまま一緒に住んで、何も知らなければ、思春期でもパパ大好きっ子だったと思う。だいたいの常識は父から習った。規則正しく生真面目で、何より誰よりも優しかった。
一抹の疑いも持たなかった。私もこの容姿でも卑屈になったことがないくらい父から『可愛い、可愛い』と言われて育ったのだ。
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