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ー第7章 滅びゆく身体ー
ジロデがオアシスの水を持ち帰った日から数日が経とうとしていた。ジロデはマリテーヌの病を治す為に砂漠にあるオアシスへ何度も足を運び、淡い色の水が入っている器を大事に抱き抱えながら走っていた。
「一刻も早く、マリテーヌ様をあの美しく健やかなお身体に戻して差しあげたい」
そのジロデの想いが届いたのか、オアシスの水を飲むごとにマリテーヌを長く苦しめていた高熱は徐々に下がっていった。そして閉じていた目を開いて話しができるようになり、次第に手足も動かせるようになっていった。
キメラはベッドに寝ているマリテーヌの耳元で、
「マリテーヌ様、もう少しでございます。 ジロデがきっと助けてくれます」
「キメラ、ありがとう」
マリテーヌはキメラに励まされ、微笑みながら静かに頷いた。
しかしオアシスから水を運ぶジロデの身体には少しずつ疲れが見え始め、今では息を切らしながらやっと歩いていた。そんな疲れ果てたジロデの姿を見て、マリテーヌはベッドの上から声を掛けた。
「ジロデ、そなたがオアシスの水を持ってきてくれたおかげで私はこんなによくなりました。 礼を言います」
ジロデは慌てて膝を折り頭を下げた。
「マリテーヌ様、私にはもったいないお言葉。 マリテーヌ様の為なら私は何度でもオアシスの水を持って参ります」
「最近そなたの顔色が良くないのでは?」
「それはおそらく、旅のせいで多少の疲れが出たのでございましょう。 私のことよりも早くあのお美しいマリテーヌ様にお戻り下さい」
「ありがとう、ジロデ」
マリテーヌはそう言って手を差し出すと、ジロデはその美しい白い手に自分の手を重ねた。
「あぁ、マリテーヌ様」
すると、マリテーヌは傷ついて痩せ細ったジロデの腕にふと気が付き、
「ジロデ、この腕の傷はどうしたのですか?」
「これは大した怪我ではありません。 オアシスへ向かう旅の途中が、やや険しいもので・・・」
「オアシスというのはそんなに危険な所にあるのですか?」
「マリテーヌ様は何も心配なさらなくていいのです。 私がまた明日オアシスに行って参ります」
ジロデはマリテーヌの白い手の甲に自分の頬をつけた。
「あぁ、マリテーヌ様。 私が必ずマリテーヌ様の命をお守りします」
いつまでも手を繋ぎあっているマリテーヌとジロデの姿を見て、嫉妬したキメラは耐えきれず後ろを向く。そして2人に悟られないように女王の間から出て行くと、キメラは黒い仮面をそっと顔に着けて宮殿の暗闇へと消えていった。
その夜、ジロデは激しく息を切らしながら月の時計台の下で倒れていた。
慌てて走って来たユラは、倒れているジロデの身体を優しく抱き抱え、
「ジロデ様、もう十分でございます。 明日は私がオアシスへ行って水を取りに行って参ります。 だからジロデ様はゆっくりお休み下さい」
「ユラ、ありがとう。 しかしあと1回、おそらくあと1回でマリテーヌ様は良くなられるのはずです」
「ジロデ様はそこまでマリテーヌ様のお身体のことを。 ならば私もジロデ様と一緒にオアシスへお供します」
「ありがとう。 あなたには・・・感謝・・・いたします」
ジロデはそう言いながら気を失うように静かに目をつぶった。
「ジロデ様! ジロデ様!」
ガラスのような時計台には2人が抱き合っている姿が映っていた。そして時計台の文字盤が動き出し、静粛した宮殿を包むように鐘が鳴り響いた。
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