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僕はこの25年間、一度も霊感があるなんて感じたこともなく、むしろ幽霊や宇宙人などの類いは信じない方の部類だった。だがどうだ、今や僕は幽霊と平気で手を繋いでいる。
幽霊は勝手に冷たいという印象があったが、ユキの手はしっかりと体温があった。
「…とは言え、これからどうするかな。」
幽霊に特別詳しいわけじゃない僕は、今まで見てきた漫画やテレビ番組の情報から推測して、ユキは母親に対して何かしら未練があって成仏できないんだと解釈した。
「ユキちゃんはいくつ?小学生?」
「…うん、7歳。」
「学校の場所はわかる?」
「…学校。…確か、おっきいタワーの側。」
「…タワー?」
僕は視線を上げ、遠くに見える中央タワーを見つめた。
「あれかい?」
ユキは僕が指差した方を見て、少し考え込んでから口を開いた。
「…なんか形は似てる感じがするけど、色が違うかも。上手く思い出せない。」
「…そうか、記憶が曖昧なんだな。とりあえず中央タワーの側まで行ってみよう。何かを思い出すかもしれない。」
僕は傘をユキ優先に差し、右肩を雨に打たれながら中央タワーまでの道のりを歩き始めた。すれ違う人たちは皆、僕の方を見ては何かをコソコソと話したり、不思議そうな視線を送っていた。
そりゃ、何故か傘を無駄に左にずらして差し、右半身を濡らしながら歩く人間を見たら誰もが奇妙な視線を送るだろうと僕は一人で納得していた。
だが、僕は幽霊を成仏させるために休みを返上してるんだという訳の分からない主張により、周りの目など気にせずに堂々と歩き続けた。その間、繋いだ手を通じてユキが震えているのを感じた。
…幽霊とは言え、こんな小さい子なんだ、不安だよな、やっぱり。僕はそう思ってユキの手を強く握った。驚いたユキは僕の方を見て、不安そうにしていた表情を弛めて、僕に微笑みかけた。
僕は小さい子どもに気を遣わしてしまった気がして、少し後悔した。
やがて、タワーの間近まで来ると、ユキは僕の手を離し、タワーの真下まで駆け出した。そして、真上を向き、雨粒とともにタワーのてっぺんを見つめた。当然地上からはてっぺんなど見れはしないが、ユキはタワーの高さに興奮しているのか、飛び跳ねていた。
僕はその様子を微笑えましく見ていた。
「…たっくん?」
そんな僕に、背後から聞き慣れた声が聞こえた。振り向くと、彼女のカオリが立っていた。
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