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「カオリ。どうしたの?」
「それはこっちのセリフよ。雨の中、ニヤニヤしながらタワーの方眺めちゃって。」
「…あ、いや。別に何も…。」
おどおどし出した僕に、カオリはぐっと近付き目をじーっと見てきた。その威圧感に僕が思わず目を背けると、カオリは冷たい視線を送ってきた。
「…な、何だよ。」
「なぁんか怪しい。私に何か隠してるでしょ?…ここには一人で来たの?」
カオリの言葉に僕は思わずユキの方に視線を向けた。ユキはまだ変わらずタワーを見ていた。カオリからは当然ユキの姿は見えてないと思った僕は、また怪しまれまいと慌ててカオリに視線を戻した。
すると、カオリはじーっとさっき僕が見ていた方に視線を向けていた。
「…カオリ?」
「ねぇ、たっくん。あの女の子…なんか変な感じしない。」
「えっ!?」
僕はドキッとした。カオリにはユキの姿が見えてるのか?
カオリはそのままゆっくりとユキに近付いて行った。僕も慌ててカオリの後を追い掛けた。
ユキは僕たちに気が付いて、くるりと振り返った。カオリは足を止めて、ユキの顔をじっと見つめた。
やっぱり、カオリにはユキの姿が見えてるんだ。
「あ、あのカオリ、この女の子は…」
「…ママ?」
ユキがカオリを見つめながら言った。僕は詰まった言葉の先を言えずに、その場で固まってしまった。
「ママ?…私が?」
カオリは当然戸惑った様子で周りをキョロキョロと見た。ユキはニコッと笑うと、カオリに駆け寄りギュッと抱き付いた。
相変わらず降り続ける雨の中、カオリは驚いて傘を落とした。
「ママだ、やっぱり。」
ユキはカオリの顔を見上げた。雨粒か涙か、ユキの大きな瞳は輝いていた。カオリはそんなユキを見て優しく微笑むと、びしょ濡れのユキを突き放すことなく、屈んで優しく抱き締めた。
「大丈夫よ、大丈夫。」
カオリが優しく頭を撫でるとユキは安心したのか、カオリの胸の中に倒れるように眠りについた。
「…カオリ、この女の子の事なんだけど…。」
「よくわからないけど、私を見て安心したみたいね。…可愛い顔してる。」
優しい表情をしているカオリを見て、僕は安堵し、地面に落ちたままのカオリの傘を拾いながら、自分の傘を二人の真上に移動させた。
「…カオリ、この子さ、ママを探してたんだよ。」
「そうなんだ。…それが私?」
「みたいだね。」
僕はカオリの胸で眠っているユキの顔を覗き込んだ。それは正に、母親に身を委ねる安心しきった表情だった。
次の瞬間、ユキがぼんやりと白い光を放ち出した。
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