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理永と享は居酒屋を出てすぐに見つけたホテルになだれこんだ。 大きなベッドとジャグジー付きのバス、洒落た調度品で揃えられた部屋。ドアを開けるや否や、享はそのまま理永をベッドに押し倒した。 「ちょ・・・っ、靴、脱ぎたいんだけどっ」 足をばたつかせ、理永は言った。腕の力を緩めた享は深刻な顔でこう言った。 「・・・逃げませんか」 「逃げないよ・・・」 「すぐ帰るって言うから」 「もう言わない」 「ほんとに?」 「そっちこそ、痣見て怯むなよ」 「怯みません」 理永はにやりと笑うと、スニーカーを脱いで適当に放り投げた。享もならって靴を脱ぐ。 シャツのボタンに手を掛けて、ふと理永は考えた。 「つか、シャワー浴びさせて。・・・あんた、タチだよな」 「あっ・・・えと、はい」 「ちょっと待ってて」 当然のように立ち上がった理永を、おろおろしながら享は見送った。シャワールームのドアが閉まったのを見届けて、大きく息を吐き出した。 勢いの良い水音が聞こえてくる。享はベッドに腰掛けたまま、シャワールームの半透明のドアを見つめていた。 しばらくたって、いてもたってもいられなくなった享が立ち上がったのと、ドアが開いたのが同時だった。濡れた髪の水滴をタオルで拭きながら、グレーのバスローブを着て出てきた理永は立ち上がった享に薄く笑った。 「あ・・・」 「・・・お待たせ」 「いいえ」 「あんたも入るだろ?」 「は、はい」 すれ違おうとした理永から漂う柑橘系のボディソープの香り。享は無意識に理永の腕を掴んでいた。 「え?」 「あっ」 「風呂入らねえの?」 「は・・・入りますけど」 目をぱちくりさせた理永を、享は急に抱きしめた。 「おいっ、なに・・・」 「ちょっとだけっ」 享は理永の首筋に顔を埋め、その清潔な香りを思い切り吸い込んだ。理永はくすぐったさに身じろぎして言った。 「・・・堪え性なさすぎ」 「無理です、もう・・・・・・」 「じゃあこのままする?」 享は必死でうなづいた。わかったわかった、と言いながら理永は享の顔を押し返して笑った。 「じゃあ、さ。まずは見る?」 ベッドに上った理永は、ヘッドボードの照明ボタンを数回押して、薄明るいオレンジのライトを選んだ。 「は・・・はいっ」 「そんな構えなくていいって」 ベッドに正座した享は、喉を上下させた。媚薬を抜くために理永に触れたときよりもずっと緊張していた。 理永は一度ベッドから降り、享に背を向けた。しゅるり、と紐を解くと、肩からすとんとバスローブを落とした。 オレンジ色の明かりの中に浮かび上がった、背中から太腿の後ろまでを覆い尽くす緋色の痣。生まれつきなのだと聞いていなければ、火傷の痕に見えるほどの赤さ。享は言葉を失った。 「・・・・・・どう?」 黙りこくっている享に、理永は背を向けたまま尋ねた。返事は聞こえなかった。やっぱりか、と、小さく息を吐いて理永が振り向こうとしたとき、その背中に温かいものが触れた。 享の手だった。 「え・・・っ」 「綺麗です」 享の声がすぐ側で聞こえた。 理永は綺麗、という単語をすぐには理解出来なかった。 「・・・は?」 「肌の上に花が咲いているみたいです・・・すごく理永さんに似合ってる」 「似合う・・・?」 「どうしてこれを悪く言う人がいるのかわかりません。こんなに綺麗なのに」 享は赤い花の上を優しくなぞった。ぴく、と背中が動く。そして、背骨に沿って享はキスをした。 「・・・っ・・・そんなこと言う奴・・・はじめて・・・逢っ・・」 「見る目がないんですよ・・・きっと・・・」 「・・・っ・・・あ・・・」 享は後ろから抱きしめながら、理永の耳に口づけた。唇の感触に理永の顎がわずかに上がる。 「こっち向いて・・・」 享はかすれた声でささやいた。一糸纏わぬ理永は視線だけを逸らし、ゆっくりと享に向き直った。 背中に広がっていた赤い花は、左側の胸にも咲いていた。それが腰骨の少し上まで伸びている。 服を全て脱がなければ、薄暗い場所であれば、痣を気にせず関係を持つことが出来た。 が、享はそれを見て、「綺麗」と言った。理永と関係を持ちたいからという理由で適当に言ったわけではなさそうだった。 「胸も・・・綺麗ですね」 そう言って享は左胸の痣にも口づけた。 「・・・っ・・・ん・・・」 「全部・・・見せてください」 享は理永を丁寧にベッドに横たえ、仰向けになった理永の胸を優しく愛撫した。日焼けしていない肌に浮かび上がる赤い花。白い部分が火照り始め、全体がうっすらと桃色に色づいていく。 「あんたも脱げよ・・・」 理永の目に見上げられた享は、何も答えず、乱暴に自分の服を脱ぎ捨て、下着だけになった。 「名前・・・まだ呼んでくれないんですか・・・」 「・・・・・・」 理永は片腕を享の首に回した。ディープキスを交わして享の目を見つめた理永は、とおる、と低く呼んだ。 「・・・ぁあ・・・っ・・・くっ・・・ん・・・」 享に根本まで含まれ、理永は背中の仰け反らせたた。シーツを力一杯掴み、仰向けに横たわった理永は必死に声を堪えた。 強制的に勃たされたのではない感覚が心地よい。どうしてこんなことになったのか、と性懲りもなく正当化しようとする自分を、理永は頭の片隅に追いやった。 再会の仕方は、はっきり言って最悪のタイミングだったが、その後の享のひたむきさに打たれたのは確かだった。が、その気持ちが恋愛感情だとは思っていなかった。 理永を諦めきれない享の想いを知ってもまだ、応えようとは思わなかった。そのうち、次第に亨がどうしてこんなに自分に執着するのか不思議に思うようになった。 自覚のスタートはベーカリーで享の妹に出会ったことだ。享によく似た彼女の笑顔を見て、温かい気持ちになったのは否めない。それが亨本人への想いだとは気づかず。 「りえい・・・さん・・・」 口を離した享が、理永の胸の痣に手を伸ばした。息が上がった理永は上半身を持ち上げた。既に天井に向かってそそり立った理永の中心は、とろりとした透明な愛液と享の唾液でぬめり光っていた。 「うしろは・・・」 おそるおそる享の指が理永の尻を捕らえる。 「・・・もう解してある・・・から」 視線を外して理永は答えた。受け入れたい気持ちを隠す必要は、もうない。享の手に太腿を掴まれる。育ちのいい童顔の御曹司の顔ではなかった。 誰とも付き合ったことのないという享。最初はまるで女性を抱くような優しさで理永に触れていたが、そろそろ限界のようだった。 享が理永の入り口を押し開いた。熱を持って硬くなった性器が遠慮がちに差し込まれる。肉襞を割って少しずつ進むたび、享の普段より低い声が聞こえる。時間をかけて身体の中に享が全てが飲み込まれるまで、理永は息を吐きながら耐えた。 享は理永を見下ろし、言った。 「好き・・・です・・・」 言葉が切れるのと同時に、享は一度最奥まで深く穿ち、動き始めた。 「んぁあっ・・・」
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