4.

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「・・・っ・・・ふ・・・」 ひとりになった理永はブランケットにくるまり、必死で声をこらえていた。 身体が熱い。動悸が激しく、呼吸が早い。 そして何よりも、下半身が熱を持ち、今にもはちきれそうに膨張して苦しい。 「・・・くそ・・・っ・・・」 上半身を起こして扉を見る。トイレがあるのは扉の向こう、享がいる部屋よりさらに向こうだった。起き出して駆け込み、抜いてしまいたかった。強制的に興奮させられているのが気持ち悪い。 しかし、こんな状態で享の前に出たくはない。何が起こっているのかなんて一目瞭然だ。媚薬の効き目が抜けて落ち着くまで、こうやって息を殺しているしか方法はないのか。 せめて、と理永はデニムのファスナーだけをそっと降ろした。そんな気はないのに、そこだけが準備万端だ。無意識に手を伸ばし掛けて、はっとする。 (だめだ・・・こんなところで抜いているのがバレたら・・・) 理永が寝かされているのは、享専用の仮眠のための部屋。扉を挟んだ隣の部屋は事務所だと言っていた。 今の状況を考えないようにしてもう一度横になりブランケットを頭から被ったが、下腹部は相変わらずズキン、ズキン、と脈打つ。 (どうしたらいい・・・・・・っ) そのまま十分、理永は息を潜めて動悸と熱い痛みに耐えたが、とうとう限界が来た。 転がるようにソファを降り、ふらふらしながら扉に向かう。途中でガラステーブルに足が当たり、がしゃん、と音を立てた。まずい、と思ったが身体が火照ってまっすぐ歩くことも出来ない。壁に手をつきながらやっとの思いでドアノブに手をかけた瞬間。 「あっ」 勝手にドアノブが回り、扉が向こう側に開いた。理永は扉と一緒に、そのまま前に倒れ込んでしまった。 「椿さん!」 理永の頭上から享の声が降り注いだ。 (やばい・・・) 身体が言うことを聞かないのと、最悪の状況に理永は固まった。 享はうつ伏せに倒れた理永の上半身を丁寧に抱き起こした。 理永はそこで自分に起きていることを隠すのを諦めた。 「大丈夫ですか?身体が熱い・・・熱があがってますね」 「・・・ちが・・・う・・・」 「え・・・?」 享は腕の中でぐったりする理永のデニムの半分降りたファスナーからのぞく下着と、その中で張り切っている中心を見て、言葉を失った。喉が上下している。 「びやく・・・のま・・・された・・・」 「えっ、び、媚薬?!」 「トイ・・・レに・・・連れてっ・・・て・・・くれ・・・」 気づくと理永は享の腕にすがりついていた。ここまで来たら取り繕っても仕方がない。無事にトイレに辿り着いて処理してしまいたい。 ところが、享は動かなかった。 理永が好きだと主張する享にとって、この光景はラッキーなのか、驚愕なのか。まともに考えることの出来ない理永は、次の瞬間、おかしな声を上げた。 「ひぁっ?!」 享の手が、理永の両足の付け根に添えられた。 「ちょっ・・・なに?!」 「手伝います」 「ば・・・かっ、やめろ・・・っ・・・」 享の手首を掴むも、朦朧とする理永の腕には力が入らない。享は至極真面目な様子で理永のデニムのファスナーを完全に下げた。 「・・・苦しいですよね・・・」 「やめっ・・・あっ」 享の手がデニムと下着を重ねて腰骨の下まで引き下ろした。布を押し上げていた理永の逸物が一気に解放されて天を仰ぐ。 慌てる理永をよそに、享はそこを手のひらで包み込んだ。 「やめろっ・・・自分でする・・・っ」 「風俗だとでも思って目を閉じていてください」 「んぅっ・・・・・・くっ・・・」 享の手に握られた理永の中心は気持ちとは裏腹にどんどん登り詰めてゆく。媚薬のせいで身体に力が入らず、理永はぐったりと享に上半身を預けたままでいた。下半身に押し寄せる快感に抗がえず、理永はただ唇を噛むだけしか出来なかった。 「椿さん・・・っ」 「あ・・・ぁあっ・・・は・・・」 「すみません・・・ごめんなさい・・・っ」 「ぁ・・・っあ・・・も・・・離し・・・っ」 「許して・・・ください・・・」 「んっふ・・・・ぁああ・・・っ・・・」 享は眉根に皺を刻んで、何度も何度も謝りながら理永の性器を扱いた。 ほどなくして理永は身体を仰け反らせ、享の手のひらに向かって放った。ところが身体の中の熱は精を吐き出しても抜けきらず、痛みと共に理永のそこは再び頭をもたげ始める。 「・・・ぁ・・・な・・・なんで・・・」 息も絶え絶えに理永はつぶやいた。苦しさと羞恥で、理永は享の腕の中でがっくりと頭を落とした。 「媚薬が抜けないんですね・・・」 頭上で聞こえる享の声にも答えられない。そしてみるみる張りを取り戻していく自分の中心から目を逸らした。 「もう・・・嫌だ・・・」 享の腕の中であることも忘れ、理永は情けない声を出した。 自業自得、という言葉が深く深く刺さってくる。 つばきさん、と享が呼んだ。 何もかもどうでも良くなっていた理永の視界が、切羽詰まった享の顔で一杯になった。 享の唇が理永の唇に触れた。 一瞬何が起きたのか分からなくなった理永は目の前の享の顔を見たが、されるがままでいた。 享のキスは不慣れで、歯が当たった。身体の主導権を放棄した理永はなぜかそのまま目を閉じた。 それから享は理永の収まらない熱を手で何度となく吐き出させ、その後ぐったりと眠り込んだ理永を起こさないように、もう一度キスをした。 小さな声で、享は最後に呟いた。 「忘れてくれて・・・構いませんから」 やっと身体の中から媚薬が出て行った早朝、理永は再びソファの上に寝かされていた。 享の姿はなく、理永はゆっくりと上半身を起こした。嘘のように身体が軽かった。 昨夜の出来事を思い出す。享が一晩中抜いてくれたおかげだった。 朦朧とする記憶の中で、キスをされた感覚だけが残っていた。 部屋の時計は五時を指していた。 ここはベーカリーなのだから、そろそろ仕込みが始まる時間だ。理永は立ち上がり、そっと扉を押し開けた。 廊下は静まりかえっており、隣の部屋からも物音はしなかった。 一晩中つき合ってくれたのだ。もしかしたら休んでいるかもしれない。理永は隣の部屋の扉をノックするのをやめた。 「・・・ありがとう」 誰にも聞き取れないほどの小さな声で理永はドアに向かってつぶやき、そっと店を後にした。
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