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「時間が無い。」 助手席に座る永島はそう言ってプリントされた書類を睨みつけている。法定速度のギリギリを保っていた遠藤に、その内容を盗み見ることはできなかった。紫煙を車内から窓の向こうへと逃がし、遠藤はハンドルを握りながら言う。 「どういう意味なんだよ。ていうか本当に日光であってんのか。」 「十中八九。ただそこからが問題だな。恐らく虫の育ちやすい環境の村なら山の中、なおかつ閉鎖的な空間だろう。そこの集落や住居を虱潰しにしていくしかないが…範囲があまりにも広すぎるな。」 「んなもん、お前が感知すりゃいいだろ。」 書類から目を逸らし、永島は運転席に座る遠藤を見た。彼はハンドルを握ったまま何てことない口調で言う。 「儀式って言ってんだからとんでもない霊力が出ててもおかしくないだろ。お前だったらそれ分かるじゃんか。」 絶大的な信頼を寄せているような彼の言葉に頷き、再び書類に視線を戻す。永島は予想した儀式の内容を黙読し終えると、ため息まじりに言った。 「さて、どう攻略するかだな。」 東京から栃木へと繋がる東北自動車道は空いていた。ハイエースはぐうーんと低く唸りながら、左車線を駆け抜けていく。川口を超えたあたりから車の数は極端に減っていた。秋の空がコマ送りのように車窓に映る中、スキンヘッドを撫でつつ永島は思考を巡らせている。 すると遠藤はペットボトルホルダーにはまった灰皿に短くなったタバコを捨てると、余った煙と言葉を同時に吐いた。 「虫に関する儀式だろ、ならこうすりゃいいんだよ。」 何気ない口調で彼は作戦をつらつらと話す。その全貌を聞いて永島は納得したものの、不思議そうに呟いた。 「でもそれ金かかるな…。俺らそんなに儲かってないだろ。」 「バーカ。俺ら最近誰かさんのおかげでかなり儲かってんじゃねぇか。」 ふと頭の中を巡らせた永島は少しばかり考えて、思わず吹き出してしまった。書類を膝の上に伏せて窓の外を眺める。雲も空も薄い自然の天井や壁はスピードと共に切り替わり、微かに太陽が見える。白い輪郭から溢れる光は高速道路に差していた。 「芸は身を助ける、か。」 「そういうことよ。じゃあ今から言うもの書いておいて、買いに行くから。」 緩やかに曲がるカーブに向かってハンドルを軽く切り、2人を乗せたハイエースは日光へと急ピッチで進んでいった。
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