蟲

５１

小枝が立て続けに折れるような音があちこちから鳴り、それを覆い潰すほどの野太い太鼓の音色が黒い空に響き渡る。めらめらと揺らぐ炎の周りで大勢の人々が満面の笑みを浮かべて踊り狂っていた。それはまるで今までの成果を発表する学芸会のように、老若男女問わず、踊っていた。鼠色のスウェットに身を包んだ人々が真横に見える。
その群れから抜け出し、１人の男性が近付いてくる。月明かりと松明の火に照らされて彼の顔の皺がより深まって見えた。目の下に塗られた墨は夜空のようにどす黒い。
彼は晴れやかな笑顔で語りかけた。
「ありがとう！君がいてくれたからだよ！」
そう吐き捨て、初老の男は群れの中へと帰っていく。そして再び奇妙な踊りを始めた。
酒瓶があちこちで振る舞われ、男性はへべれけになりながら舞い、女性はおしとやかに舞いを披露している。熱気に包まれた村の中心で冷えた風を浴び、体が内側から震えだす。凍死という言葉が頭に過っては姿を消す。次第に霞む景色の中で、あの感覚に包まれた。
ざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁざぁ
（また、だ…。）
心の中でそう呟き、重い瞼と格闘し続ける目の前には数人の男女が黒い墨の塗られた笑顔で、囲うようにぼんやりと立ち尽くしていた。
全員と目を合わせ、直樹は”心地良い感覚”に包まれながらため息をついた。
「ありがとう…、こんな素晴らしい役をくれて。」
直樹は祭壇の上で寝転がったまま言った。一切の不安が虫の這う音で掻き消され、それがゆったりと直樹を包み込む。
彼を見下ろす真由美は満面の笑みを浮かべて答える。
「こちらこそありがとう。私たち”永昆凛理教”のために生贄となってくれて。本当に嬉しいわ。」
”永昆凛理教”。直樹はその団体名を聞いて柔らかく笑った。あの豪勢な部屋で読んだ本に書かれていた宗教は考えの違いから裏切りにあった。何故その時の自分はあの本を読んで恐怖を抱いたのか分からず、直樹は過去の自分を心の中で貶した。
目元に墨を塗りたくった真由美は直樹の頬をそっと撫で、酒盛りを行っている男女の群れに戻っていく。山中賢吾、林圭子も彼の頬を撫でてから、祭りの中に向かっていった。
神へ生贄を捧げる際、民衆は明るく振る舞わなければならないと安能院は話していた。厳かな雰囲気よりも皆が幸せな雰囲気を保っている状況が必要なのだという。皆がそれを心掛けているため、大勢の男女の真ん中には酒瓶や豪勢な食事が用意され、皆それぞれつまみながら思い思いに踊っている。
直樹はふと祭壇の前に佇む木のテーブルに目をやった。
そこには食事や酒ではなく、綺麗に磨かれた剥き出しの日本刀、透明で細い注射器が注連縄に巻かれていた。麻酔を打ってから日本刀で体を刻まれる。直樹は恐怖など微塵も感じずに、黒い空を見上げていた。
「なんで？」
ぼそりと呟く声が耳に入り、直樹はふと辺りを見渡す。しかし彼の周囲には誰もおらず、ほとんどの村民が野太い太鼓のリズムに身を任せ、我を忘れて踊っていた。誰かに見てもらうわけでもなく、ただがむしゃらに踊っている。
「どうして恐怖を感じない？」
”その時の”直樹にはまるで理解のできない言葉だった。すぐそばで聞こえる男性の声に直樹はただ困惑していた。
「俺はこんなことをするために生まれてきたんじゃない。」
（だ、誰の声なんだ…）
「俺は彼女と平和に暮らしたい。」
（神の声なのか？）
「唐揚げが食べたい。」
（いや、神ではない…）
「もっとあいつと一緒にいたい。」
（どこから聞こえてるんだ）
「皆が喜ぶ記事を書きたい。」
（歴代の生贄の声なのか？）
「まだ生きたい。」
（幻聴なのか）
「死にたくない。」
（この声は一体何な）
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくな」
「直樹さん。」
ざらりとした声が聞こえ、妙な男性の言葉が途絶える。安能院は穏やかな笑みを浮かべて直樹を見下ろしていた。
「大丈夫ですか、体調の方は。」
「え、ええ…ただなんか、妙な声が聞こえてきて…。」
答え終わるのを待たずして安能院は掌を彼の眼前に翳した。皺だらけの手に、琥珀色の数珠が月明かりに照らされてキラリと輝く。
やがて安能院は目を瞑り、ざらりとした声で言った。
「你们是上帝的选民。 永远不要焦急。 上帝在你身上的化身将把你的身体切成三块，献给天堂以拯救我们的人民。 你要为失丧的人献出你的生命。 既然你被选为这个光荣的角色，你就没有什么可担心的。 你真了不起。 今天，在这个天堂之门的夜晚，你将能够做几分钟的神。 你将成为拯救那些充满焦虑的人的希望。你们是上帝的选民。 永远不要焦急。 上帝在你身上的化身将把你的身体切成三块，献给天堂以拯救我们的人民。 你要为失丧的人献出你的生命。 既然你被选为这个光荣的角色，你就没有什么可担心的。 你真了不起。 今天，在这个天堂之门的夜晚，你将能够做几分钟的神。 你将成为拯救那些充满焦虑的人的希望。你们是上帝的选民。 永远不要焦急。 上帝在你身上的化身将把你的身体切成三块，献给天堂以拯救我们的人民。 你要为失丧的人献出你的生命。 既然你被选为这个光荣的角色，你就没有什么可担心的。 你真了不起。 今天，在这个天堂之门的夜晚，你将能够做几分钟的神。 你将成为拯救那些充满焦虑的人的希望。在你见到上帝之前，请放心。」
聞き覚えのない不可思議な言葉が羅列され、直樹は彼の声にただ聴き入っていた。全ての不安をゆっくりと包み込んでくれるような、それはまるで怪我をして帰ってきた我が子を抱きしめるような、母に似た温もりのある声だった。
妙な声が聞こえて不安を覚えていた直樹は、安能院が何かを唱え終わったと同時に頬を緩ませた。
「ありがとうございます、安能院様…。」
「いいのですよ。何も不安に思うことはありませんからね。」
優しく直樹の頭を撫でると、両手を合わせて深々と頭を下げた安能院は彼の前から離れ、踊り狂う村民たちの群れを擦り抜けていった。少しばかり距離を置き、安能院は村の全体を取り囲む木々に向かって何かを唱え始める。
やがて少しすると、升に入った日本酒を飲み干した林圭子がさっぱりとした表情で直樹の前にやってきた。片膝をついて彼女は言う。
「これより、民からのお言葉を聞いていただきます。村民は皆神へ捧げられる直樹様に声をかけようと、今か今かと待ちわびております。」
ふと彼女の向こうに視線を向けると、それまで宴を楽しんでいた大勢の男女が林圭子の後ろで列を成していた。びっしりと、まるで蟻のように行儀良く並ぶ村民たちは盗み見るように直樹の方を向き、どこか浮き足立っている。
「愚かな民の声を、どうか聞いていただけませんでしょうか。」
グレーのスウェットを着て目元に墨を塗った村人たちの表情を見て、直樹は妙な使命感に駆られていた。自分が話を聞けば全員が救われるのではないか、そう感じた直樹は一度だけ頷いた。
すると林圭子はおもむろに立ち上がり、背後の列に向かって手を挙げる。びっしりと揃っていた行列は蛇のように畝り、やがて先頭に並んでいた初老の男性が一歩前に出た。柔らかで薄い白髪を風にたなびかせ、震えながら両手を合わせる。
その男性は、大粒の涙を流していた。
「ありがとうございます…生贄となってくださり、本当にありがとうございます…。」
直樹は自分の予想が当たっていると思い込んでいた。全員が彼の前に立つと泣きじゃくりながら、両手を合わせて感謝の言葉を述べている。自分が生贄となることでここまで大勢の人々から感謝される。
直樹は次第にその快感に酔いしれていった。
「ありがとうございます…。」
「あなたのおかげで私たちは生きられます…。」
「神様…本当にありがとうございます…。」
「良い作物を恵んでください…。」
「あなたはなんて素晴らしい人なんだ…。」
「あなたの力でこの村に希望を…。」
「決してあなたの勇姿は忘れません…。」
「私たちのために、ありがとう…。」
「あなたのおかげでこの村は未来永劫残り続けます…。」
「愚かな我々をお救いください…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。ありがとう…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
「直樹様…。」
いつの間にか直樹は涙を流していた。
それは生贄がいなければ生きていられないと話す彼らが哀れに見えてしまったからだった。
全員が涙を流しながら帰っていく。やがて泣きじゃくりながら無理に笑みを浮かべ、野太い太鼓のリズムを聞きながら踊りを再開する。
「直樹。」
列の最後、真由美はぱあっと表情を輝かせながら言う。
「本当に、私たちのために生贄になってくれてありがとう。出会った時からずっとこの日を待っていたの。いつか直樹が生贄になってくれることを願ってずっとそばにいて、それが今日叶うなんて…本当に嬉しい…。」
「俺も、生贄になれて、良、かった。よ。本当、に、真由、美のた、めにこの、身、を、捧げるこ、とが、できるなら、それ、で本望だ、よ。」
朧げな意識の中で直樹は言葉を返していたが、何故か声が途切れ途切れになっていた。まるで誰かから言葉を制限されているようで、上手く喋ることができずに困惑してしまう。
それを察したのか、真由美はゆっくりと首を横に振って、直樹の頭を撫でた。
「大丈夫。直樹は優しい人。私たちのために身を捧げてくれる、優しい人だよ。」
そう囁いてから真由美は顔を近づけ、触れるようなキスを交わした。微かな酒の匂いと唾液が香ってすぐに離れていく。彼女は一筋の涙を流しながら微笑み、村民たちの元へ戻っていった。
そして入れ替わるようにやってきた安能院と林圭子は祭壇の前に腰掛けると、お互いが数珠を手にして両手を合わせ、彼はざらりとした声を張った。
「それでは、只今より捧身の義を執り行いたいと思います。」
彼の言葉が村中に響き渡ると、ピアノ線を張ったような静寂が訪れた。踊り狂っていた男女の声や足音も、野太い太鼓の音も、はしゃぐ村民たちの声も、ぴたりと止まって全員が安能院の背中を眺めている。
やがて安能院と林圭子は目を瞑って一斉に言葉を唱え始めた。
「根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。根据甲申信仰，为了拯救我们这些迷失的人，我们将在今晚第六十个月夜供奉化身的佛祖。 在接下来的六十天里，我们将切成三块的祭品尸体献给神灵，以便我们都能在没有饥饿和灾难的情况下和平、健康地生活。 这条虫子的化身被村民杀死，以表达他们的日常挫折感。 在接受了它之后，他献出自己来拯救村庄。 请原谅我们今晚的愚昧，我们的错误，以及我们的贪婪。 我们不会背叛上帝，我们将永远与他同在。」
言葉の意味は理解できなかったものの、これが自分を神へと捧げてくれる有り難い言葉なのだと思い込み、直樹は安堵のため息をついた。
お経に似たその言葉は30分ほど村に響き渡った。この村のため、真由美たちのために、２人はその言葉を唱え終えるとゆっくり目を開けた。安能院は静かな声で直樹に言う。
「それでは直樹さん、いよいよ最後です。もしよろしければ最後に、村民に向けて何か一言くださいませんか。」
林圭子は気を使って祭壇に上がると直樹の上体を起こした。彼は60人以上の村人たちを眺めながら、一度だけ深呼吸をした。秋の冷たい夜風が肺に滑り込み、全体を洗い流してくれる。
「皆さん、私はこの村のため、皆さんのために生贄になれることを、心から光栄に思っています。思えば私は何の使命感もなく惰性の日々を送ってまいりました。しかし真由美と出会ったことで全てが変わりました。神の化身から有り難い感覚をもらい、やがて皆さんのためにこの身を捧げることができる。こんなに素晴らしいことはありません。皆様のお役に立てるのであれば私はいくらでも、この身を、捧げたいと、お、おおおおお、もっており、いい、い、あ、ああああああ、うああああああああああああ、あがが、いや、本当に皆さんのために、な、なるう、るるる、のな、ら、ああああああ、ああ？しおおおお、うう、うん？」
誰かに操作されているようで、直樹はうまく言葉を紡げずにいた。頭の中で既に文章が出来上がっているにも関わらず、それを喉から出せずにいる。
やがて直樹は気が付いた。
「ああ、ここっここここっここ、れ、はああ、あ、ささ、き、いいいいいいいいいいのこえええええええ、ええええ、え」
死にたくないと言っていた妙な声が自分自身の声であることに気が付き、直樹は恐怖した。先程の声が自分の声であるなら、あれは本心なのか、なら今自分が発している声は偽物なのか、何も理解できぬまま直樹は全身を震わせていた。
祭壇の前に座っていた安能院はおもむろに立ち上がると、注連縄を解いて注射器を握った。ほんの少しだけ押し、中身の液体が漏れる。それが月と星の輝きでキラリと反射した。
「はぁ、さっさと打つか。」
舌打ちをして安能院は壇上に上がる。林圭子はそれを見て直樹の袖をまくると、彼の左腕を差し出す。安能院は気怠そうな表情で注射器の針を直樹の腕の上に這わせ、ゆっくりと進ませようとした。
「あ、安能院様…。」
直樹の腕を掴んでいた林圭子は不思議そうに呟く。怪訝そうな表情は青白い月明かりに照らされていた。
「なんだ、どうした。」
「いや…何か聞こえませんか？」
彼女がそう言うと、村人たちもその異変に気が付いたのか頻りに辺りを見渡した。安能院は何も聞こえないのか、警戒する小動物のように首を回す。
意識が朦朧としていた直樹は何も聞き取れなかったものの、不安そうに見えた安能院を見て、同じように辺りを見渡す。
すると村人たちの中から飛び出してきた山中賢吾が祭壇の前に滑り込むと、焦った様子で声をかけた。
「安能院様！」
「な、なんだよ。なんなんだ。」
「いや、あれ…。」
そう言って彼は上空を指差す。木々のドームから顔を覗かせたのは、眩い光を降らすヘリコプターだった。
バババババババババババババババ
プロペラが回転し、その音を村全体に降らしている。やがてヘリコプターの数は１台、２台、次々と増えて真っ暗な空を明るく照らしていく。
最終的に６台のヘリコプターが三途村の上空を埋める。安能院は目を見開いてそれを睨んでいた。
「な、何だあれ…」
彼が不安そうな言葉を漏らした途端、まるでその一言が合図となったように村の周囲を壁のように取り囲む木々から、真っ白な光が一斉に照射される。村は一瞬で昼間のように明るくなった。
「お、おい！これは一体どうなってるんだ！」
安能院だけでなく、村人たちは腕で目を覆い隠しながら狼狽えている。丁度林圭子と彼の影に隠れていた直樹は２人の隙間から、小さな２つの影を見つけた。
それが近付くにつれ、どこかで見た記憶のある男性の輪郭がぼうっと浮かび上がる。はっきりと確認することができた直樹は、自然と大粒の涙をこぼしていた。
自然と避けていく村人たちの真ん中に立ち、天然パーマを掻きながら遠藤は声を張った。
「もう終わりだ、安能院。」