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52
眩いライトが村全体を照らし、遠藤の燻らせた紫煙がくっきりと見える。小さなグレーの龍はそのまま夜空へと昇っていった。
直樹の腕を掴んでいた安能院は注射器を放り投げ、慌てた様子で壇上から降りると悲痛な声を漏らした。
「だ、誰だお前らは!儀式の邪魔をするな!」
声が裏返った情けない様子の彼は怒りを滲ませ、肩を震わせている。しかし前に立つ2人は依然として余裕の態度を取っていた。タバコを一口吸い、もわっと煙が漂う。その行方を眺めながら遠藤は安能院をキッと睨みつけた。
「井上直樹さんからの依頼で参りました、遠藤相談屋です。数日前に彼からのSOSを受けまして。」
「なるほどな…君たちか、直樹さんと電話していたのは。」
ごくりと唾を飲んで安能院はゆっくりと体を傾ける。彼の足元にあった木の机の上から注連縄に巻かれた日本刀を取ると、躊躇なくそれを抜いた。細長い銀色が大量のライトに照らされてあちこちに輝きの粉を散らす。
それを手にしたことで安能院は気分を落ち着かせたのか、両手で刀の柄を握りしめながら、ざらりとした声で言った。
「ど、どうしてここが分かったんだ。」
直樹は彼らの顔を見てようやく我を取り戻しつつあった。視界の周りを覆っていた靄は晴れ、体中に鉛のような安心感が宿る。全身の筋肉が緩んだように彼は大粒の涙を零し続けていた。
それまで黙り込んでいた永島は自らのスキンヘッドを優しく撫でる。冷静な口調で彼は声を張った。
「安能院、もう嘘をつくのはやめろ。」
村人たちは何も理解できないといったように狼狽えている。その心の揺れを後押しするように永島は続けた。
「虫の神も、この儀式も、全て嘘だ。全部パクったんだろう。」
その一言は有効打となった。パクリという言葉を受けて村人たちは各々顔を見合わせ、不安そうな表情を浮かべる。信者と教祖という関係性にヒビが走った。
安能院は必死に言葉を探していたものの、すぐに永島の追い討ちに遭った。
「三尸の虫、だろ?元は中国道教に伝わる庚申信仰だ。その頃人間の体内には虫が住んでいると考えられ、その虫は60日に一度やってくる庚申の日、眠った人間の体から抜け出して宿主の悪行を神に伝え、その人間の寿命を縮めると考えられていた。だから昔の人々は寿命が縮まって欲しくないがために庚申の日、全員が眠らずに過ごすという風習を行っていた。こいつは意味を変えて今も日本に残っている庚申待だな。腹の虫が収まらない、虫の居所が悪い、虫の知らせ。現代でも使われる言葉にも三尸の虫の名残は強く残っている。こいつをパクったんだろ。」
必死に首を横に振る安能院だったが、その動揺の波は着々と村人たちを溺れさせていった。
「平安時代には日本にもその信仰が伝わり、江戸時代では各地域で庚申講と呼ばれる集まりが起こった。庚申待を18回繰り返すとその記録として庚申塔などの石碑が建てられるようになったが、明治政府は庚申信仰は迷信だと言って多くの石碑を撤去した。まぁよく見つけたもんだ、お前の親父なのか前の教祖が見つけたのかは知らんが。」
「だ、だが、どうやってここを突き止めたんだ!」
みっともない声で安能院は叫んだ。上空を飛び回るヘリコプターは依然としてけたたましい音を鳴らす。その声色に屈することなく、続きは遠藤が担った。
「正直、直樹さんだけじゃここまで辿り着かなかったよ。でもその後に同様の依頼が入ったんだ。場所は北区神谷東団地付近。木暮夫婦の家だ。覚えてるだろ?」
その時安能院の表情が一瞬で曇った。責められているような、何かを必死に我慢しているような、不思議な面持ちだった。やがて彼は一度だけ頷いた。
「そして元々の依頼も照らし合わせて考えたんだ。直樹さんだけを狙った虫の霊、こいつは何故か俺たちだけでなく真由美さんにも影響しなかった。つまりは鉄の箱から放つ虫の霊で無差別に周囲の人々を呪うのではなく、あくまでも1人だけを狙っている。もし各地域に集中していたとするならば近くに支部があることだろう。そもそもこいつが宗教犯罪だってことに気付いたのも木暮清さんが残した遺書のおかげだ。その内容はこうだ。『誤った歴史を繰り返すな。主は靄、悪し戯な終わりは奴の欲にてしかなゐ』だ。歴史は頑固だ、場所を変えられないからな。つまりあの鉄の箱を埋めた連中は必ず本拠地を構えていると判断した。除籍謄本に載っていた木暮清さんの出生が不明であることも鑑みて、おそらく木暮清さんの出身地が本拠地で間違いない。つまり歴史に基づいた場所、こいつを友哉が探し当ててな。」
吸いかけのタバコを足元に落とし、砂利をまぶすように揉み消す。残った煙は鼻の穴から漏れた。
「日本に庚申信仰が伝わった時、日本人は考えたんだ。自分たちの寿命を縮めようとする虫を排除するにはどうすればいいのか。庚申待以外にも方法はないかってな。そこで日本人は文字に注目した。申は猿、昔から猿は厄が去るという意味で縁起がいいとされてきた。つまり猿を祀ればいい。そこで生まれたのが、三猿だ。見猿言わ猿聞か猿。日本人はこいつを庚申信仰の神様として祀った。歴史に基づいた場所が本拠地、そうなればここ、日光しかないだろ。」
「主は靄という言葉にも注目した。主は神、それが靄ということは存在しないという意味だ。ここで推測を立てた。もしかするとその連中が信仰している神はでっち上げられたものなんじゃないか、他の歴史から儀式や信仰をパクっているんじゃないか、そう考えた時に全ての辻褄があったよ。」
直樹は淡々と話す2人に恐怖さえ覚えていた。どうして自分1人のためだけにここまで頭を使い、足を運ぶのか。執念にも似た彼らの前ではどんな嘘も通じないのかもしれない、直樹は上体を起こしたままそう考えていた。
一歩前に出た永島はタートルネックの袖を捲ると、左手首に巻かれた数珠を掌に収めた。それをじゃらじゃらと鳴らしながら彼は辺りを見渡すと、得意げな声で言った。
「見事な防霊壁だな、安能院。儀式の際に漏れる霊力を全て隠蔽するためにバリアを張ったんだろうが、中途半端な知識でその力を使うもんじゃない。山は人間だけでなく動物霊も蔓延しているから、常に山から霊力は一定数漏れている。ただお前のバリアが完璧すぎたせいで、山の一部分から一切霊力が漏れていないという不自然な現象が起きていた。探すのは簡単だったよ。」
日本刀は振動すると奇妙な金属音を奏でる。安能院は刀を握りしめたまま、全身を震わせていた。これまで築き上げてきた嘘偽りが目の前でみるみるうちに剥がされていく感覚は、どれほどのものなのだろうと直樹は思った。
その様子は背中からも感じ取ることができた。穏やかで、常に平静を保っている彼は今、動揺に蝕まれている。
遠藤は新しいタバコを一本抜き、ジッポライターで火をつけた。再びライトに照らされて濃霧が強く浮かび上がる。彼は革のジャケットを脱ぎながら言った。
「安能院、このヘリコプターが何か分かるか。」
上空を飛び回り、スポットライトを降らしている5台のヘリコプターは村の上で停滞し続けている。誰も何も答えられないまま時間は過ぎていった。
「除籍謄本から出生が消されている、つまりこいつは警察も政府もあてにならねぇ可能性があるってことだ。だから俺たちはマスコミの力をフルに使った。」
白いタンクトップ1枚になり、ぐるぐると肩を回す。筋肉質な体は月明かりで白く浮かび上がっているようだった。
その腕を振って親指を永島に向けると、彼はニヤリと笑った。
「ここにいる友哉は有名な神社の跡取り息子でな。親父さんのコネを使って、日本最大の民放局、ヒガシテレビの中継用のヘリコプターを5台借りたんだ。まぁ快諾してくれたのは、直樹さんのおかげもあるんだがな。」
そう言うと全員が一斉に直樹の方を向いた。驚きの視線もあれば、憎悪に近い視線もあった。後者の目で安能院は直樹を睨みつけていた。
「直樹さんが勤めているJEボードは国内最大手のwebマガジンサイトで、数年前にヒガシテレビと業務提携を結んでいる。さらにはJEボードが運営する動画配信サービスもあるんだ。良かったな、安能院。お前は今ネットの世界で有名人だぞ。」
嫌味ったらしくそう言うと、遠藤はジーンズのポケットから携帯を抜いて画面の上に指先を滑らせた。数回スクロールを繰り返し、画面を反転させる。
「同時接続3万人、すげーな。今3万人が日本刀を持ってるあんたを見ているってことだぜ。インチキ教祖様よ。」
全員の視線が上空に向けられ、何人かは今になって両手で顔を覆う。しかし安能院はそれでも諦めることはなかった。
「お、おい!男ども!あの2人を取り押さえろ!」
安能院の怒号が響き渡り、言葉の圧が男性陣に影響する。しかし数十人の男性陣はすぐに動けずにいた。真上から全国に生配信を行うヘリコプターが飛び交う中、誰1人としてその一歩を迷っている。
しかし教祖の言葉は偉大だった。
「早くしろ!」
最後にそう叫ぶと、臀部を蹴り上げられたように男性陣は遠藤を取り囲み始めた。じわりじわりと遠藤の周りに人の壁が出来ていく。飲み干した酒瓶を逆さに持ち、彼らは姿勢を低くした。
しかし遠藤は余裕の態度を見せていた。
「友哉、隙を見て直樹さんを救出してくれ。」
「はいよ。」
首を鳴らす音がゴリゴリと辺りに響く。やがて筋骨隆々の男性がスウェットの袖を捲ったタイミングで、その男性は遠藤目掛けて一目散に駆け出した。
それが合図となり、円が急速に縮まっていく。祭壇の上でそれを眺めていた直樹は恐ろしいものを見た。
酒瓶を持った男は腕を振り上げて遠藤の頭にそれを振り下ろそうとする。しかしその動きを読んでいたのか、遠藤はぐっと重心を落とし、左足と左腕を同時に男へ突き出した。
遠藤の左肘は勢いをつけたまま男の鳩尾に突き刺さる。その衝撃に負け、手から離れた酒瓶は弧を描いて後方に飛んでいく。その最中も遠藤は追撃を許さなかった。
軽々しくステップを踏み、最初に踏み込んだ堅いのいい男の懐に滑り込む。両腕を伸ばしてその男の体を掴むと、遠藤はタックルの要領で頭を突き出した。
衝撃で数歩後退る男から距離を取り、痛みで少しばかり体を折った男を見て、遠藤は高らかに足を振り上げる。彼の履いていた革靴の先端が男の顎を捉え、がくがくと痙攣が起こる。急所を2つも狙われた男はそのまま地面に倒れこんだ。
既に男たちの活気は消え失せていた。どうやら筋骨隆々の男が一番腕っ節があったのか、その男が倒れ込んだ瞬間に周りを取り囲む円はじわじわと引いていった。
「どうする、まだやるか?パクリ野郎。」
自信たっぷりに遠藤がそう吐き捨てた時、安能院は我を忘れて駆け出した。言葉にならない叫び声をあげながら刀を頭上にあげ、遠藤のみに狙いを定めている。
直樹は思わず声を上げようとしたが、その心配は杞憂であった。
あまりにも分かりやすい太刀筋を見せた安能院は、ただ真っ直ぐに刀を振り下ろした。遠藤はその動きに合わせて右にステップを踏み、ぐっと体を低くして鋭い右フックを脇腹に刺す。
くの字に体を曲げた安能院の握力は緩み、それを見逃さなかった遠藤はすぐに手の甲を叩く。日本刀は重なった金属音と共に地面に落ち、それを慌てて拾いあげようと屈んだ彼の顔面を、遠藤はサッカーボールのように蹴り上げた。
あまりに機敏な動きに見惚れていた直樹は、駆けつけた永島の存在に気付かなかった。
「大丈夫ですか、直樹さん。」
直樹の体を抱えて永島は優しく呟く。穏やかなその声が鼓膜を撫で、体の中に温もりが駆け巡る。眼鏡の奥に見える彼の目があらゆる緊張状態を解いた。
ほっと胸を撫で下ろした時に体の硬直を失い、思わず永島の体にもたれてしまう。永島は腕の中に倒れた彼の肩を優しく叩きながら、ゆっくりと壇上から降りていった。
「体の中にある虫の霊は後に取り除きます、今はとりあえずここから出ましょう。」
「は、はい…。」
覚束ない足取りで砂利道の上に降りる。それまで彼の周りにいた林圭子と山中賢吾は、既に目も当てられない姿だった。脱力しきった2人は膝から崩れ落ち、分かりやすく項垂れている。この2人もまた被害者なのかもしれないと直樹は考えていた。
祭壇から離れ、2人は遠藤の背後に回る。指の骨をぼきぼきと鳴らしながら彼は唇に咥えたままのタバコを吹かす。
「え、遠藤さん…。強いですね…。」
「まぁ学生時代ヤンチャしてた頃の名残っすよ。それにこういう仕事してると、危機的状況なんていくらでもありますからね。」
数年以上連れ添った女性に裏切られ、数ヶ月しか付き合いのない2人に命を救われる、人間はいつ誰がどこで自分の味方につくか分からない。一緒にいる期間は信頼とイコールではないのだ。
趣味嗜好が合っていて、どんな時も可愛らしい笑顔を浮かべる女性よりも、霊能力を持っていて、腕っ節のある何でも屋が味方となる。直樹を守るように前に立つ遠藤相談屋の背中を見て直樹は一筋の涙を零した。
紫煙が漏れ、ヘリコプターの方へ昇っていく。遠藤はため息まじりに言った。
「もう終わりにしようぜ。ここのやり口は全部暴かれたんだからよ。」
地面に蹲っていた安能院は鼻頭を抑えて起き上がる。前の3人をキッと睨みつけて彼は下唇を噛んだ。
戦意喪失、その言葉はこの状況のために生まれたのではないかと思うほど、村人たちは肩を落として落胆し、啜り泣く女性の姿も見られる。
その空間を守るように、ひしゃげた鼻から血を垂らして彼は声を張った。
「しょ、しょうがないだろ…俺が悪いんじゃない!」
彼は皺だらけの拳で砂利を叩くと、情けない声で続けた。
「俺が子どもの頃からこの文化はあったんだ。六十日が巡ってくる度に村の人間が他の地域から人を連れてきて、毎回儀式を行っていた。そりゃ物心ついた時は疑問もあったさ。本当にこの儀式で俺たちは救われているのか、幸せなのか、そんな風に思っていたら学校の友達は皆離れていった。あいつはおかしな村の子どもだからって。でも…俺の父親が初代の教祖だったから、従わざるをえなかった。元々俺の父親とその仲間たちは本城冥星教という宗教の教徒だったんだが、考えの違いで追放されてしまった。そんな父親たちがようやく作り上げた居場所に疑問を抱くのは違うって、そう思って生きてきた。だから俺が永昆凛理教の教祖になった時に決めたのさ。子ども達がバカにされないような、誰もが安心できるような、そんな場所を作りたいと。ああそうさ、神なんていないさ。いくら儀式をしても病で亡くなる人もいるし、信者を集めるためにこの村を出ていった連中に裏切られたことも多い。本当に俺が教祖でいいのかとも考えた。それでも、こうするしか方法はなかったんだよ。だって、神はいないから、信じるしかないんだ。周りはどんどん俺を持ち上げて、性交渉を持ちかけてくる女もいた。これ以外、生きる方法はなかった。」
ヘリコプターの音だけが夜空に響く。彼の言葉に力は無いものの、妙にくっきりと聞こえていた。
村人たちは特に聞き入っている様子はなく、安能院が全員と繋いでいた糸が全て切れたような、孤独感に塗れている。
その周りを見て彼は自らを嘲笑ったようにため息をついた。
「いつかこうなるのかもしれない、そうも考えてたよ。神がいる証拠もなく父親からの嘘を継いで、教祖になって私利私欲を満たして、ここまで来て本音を言えると思うか?最初から道を踏み外していた人間からしたら、ここが正しいルートなんだと思い込む他ないんだ。いつかそれが間違っていると誰かに暴かれて孤独になっても、これ以外にないんだ。俺は父親とその仲間が作り上げた偽りを信じるしかなかったんだ!」
村人達だけではなく、彼の前に立つ3人も言葉を失っていた。
人生の途中で間違っていれば誰かが正しい道へと導くだろう。しかし生まれた時からその道が間違っていたとしたら、誰がその道へと正すのか。
もしかすると現在当たり前だと思っている事が、その他大勢からすると間違いとなる事もあるかもしれない。
村人たちの真ん中で項垂れる安能院は老人と呼ばれるまで、偽りを真実だと思い続けていた。
遠藤は彼に背を向け、直樹の肩を担ぐと背中越しに安能院へ声をかけた。
「今この配信を見ている視聴者たちが通報を済ませた頃だろうよ。そろそろ警察が来るはずだ、逃げんじゃねぇぞ。」
それ以上は何も言わずに3人は畦道へと向かった。周囲から村を照らす明かりに照らされ、直樹はふと顔を上げた。
真由美はその他大勢の村人たちと同様に、砂利の上に崩れ落ちていた。その表情は生気が欠如しており、誰の声も一切届かない、がらんどうのようだった。
冷たい風が3人を真正面から殴る。永島は直樹の背中をさすりながら言った。
「いいのか、泰介。」
「何がだよ。」
「色々言ってやるんじゃなかったのか。もうすぐあいつら逮捕されるだろ。」
「しょーがねぇだろ。」
ぶっきらぼうに答えると、遠藤は一度だけ舌打ちをした。咥えていた短いタバコを前に吐き捨て、足で揉み消すと残った煙を吐く。
彼はゆっくりと立ち止まって背後を見た。つられて直樹と永島も後方を振り返る。
村役場の周りをめらめらと照らす松明は寂しく燃え続け、ぼうっと浮かび上がる村人たちの影は微動だにしない。それを眺めながら遠藤は寂しそうな声色で呟いた。
「安能院があんな状態なのに、誰も心配して駈け寄らないんだぞ。それまで教祖として持ち上げていたのに一瞬であんな風になっちまう。見てられるかよ、こんなの。」
その時、村の出入り口の方が騒がしくなった。パトカーのサイレンや赤いランプがようやく村に染み渡り、大勢の警察官が入ってくる。彼らは急いだ足取りで3人を避けつつ、村役場の方へと走っていく。
3人はそれから一度も振り返らなかった。誰も何も喋ることなく、車に乗り込んでから山を降りるまで、一言も発することはなかった。
体を沈ませてしまうほどのシートに体を預け、直樹は考えていた。
安能院はこれから先、どう過ごしていくのだろうか。
他人の朧げな未来を想像していると、鉛で殴ったような眠気が直樹を襲い、彼はすぐに深い眠りに落ちてしまった。
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