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7時の投稿を忘れてしまったので二話一気に投稿します。
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「んんぅ」
腕を伸ばすと、ポキポキと音が鳴る。
タイピングで棒のようになった指を鳴らしながら時計を見ると、21時を過ぎていた。
『今日は帰ってくる?
帰ってくるなら、晩飯の買い出しに行かなきゃ行けないからさ』
昼過ぎに送った遊馬へのLINEは既読すら着いていなかった。
いつから、俺は素直に「会いたい」と言えなくなっただろう。会いたいと告げると、遊馬が顔を顰めるようになってからだろうか。
「そろそろ開店する時間か.....」
今日は酒を煽らないと寝られそうにない。だからといって、誰もいない家で一人というのも耐えられない。となれば、行くところは決まっている。行きつけのゲイバーだ。会社を出てタクシーを捕まえると、目的地まではラブホ街を経由するため、少し前を行き先として伝えた。タクシーを出ると、艶かしい色のライトが道路を照らしている。
「あれ?」
少し歩いたところで目的の店がある繁華街の方から、先ほど別れた葛城が歩いてくるのが見えた。思わず声を掛けそうになったが、ここがラブホ街出会ったことに気付き口を抑える。良く見ると、葛城は横にいる男と腕を組んでいた。
(女性よりもノンケ男性ウケしそうな容姿だし、別に不思議じゃないか......)
ここら辺じゃ特別珍しい光景でもない。そう思い直し歩みを進めようとしたとき、
「えっ、?」
興味を失った筈の光景に釘付けになり目が離せない。
「あす、ま......?」
葛城が火照った顔で寄りかかり、遊馬はそれを受け入れながら、するりと彼の腰に腕を回す。
二人が仲睦まじくラブホに入ろうとした瞬間、遊馬と目線が絡まった。
(まずい、目を逸らさないと)
全身の血が冷え渡り、鼓動が高まるのを感じる。
目の前の光景から目を逸らしたいのに離せない、理解したくない。
足が一歩下がる。
はっ、と前を見ると迷子の子供のような表情をした遊馬が、弱々しく手を伸ばしてくるのが見えた。それを理解した瞬間、リミッターが解除されたように背を向けて走り出す。途中、足がもつれそうになりながらも、がむしゃらに走った。
「あんた.....取り敢えず、中に入りなさい!」
どうやら、無意識のうちに目的地のゲイバーに向かっていたらしい。
俺を見たママは瞠目したが、修羅場には慣れているのか手馴れた様子で俺を店に通してくれた。いつもはバシバシと俺の背中を叩くゴツゴツとした手が、優しく背中をさすっているのに何故だか笑いが込み上げてくる。
「ママぁ、もっと強いやつちょぅだい!」
「失恋してヤケ酒で死ぬほど、みっともない死に方ないわよ!今あるので我慢しなさい!」
暫くして冷静になったらなったで、ボロ泣きの状態で店に来たことや、遊馬の浮気現場がフラッシュバックしてきた。頭をよぎる度に酒を煽っていたが、ママに止められてしまったため、今あるお酒をチビチビと飲む。
「良かったら、話聞きますよ」
そうしていると、俺の隣に座っていた先客の男が話しかけてきた。
ゲイのあらゆるモテ筋から外れている俺に話しかけてくる人間なんていなかったため、遊馬への罪悪感も抱かず常連と化していた俺だったが、物好きな男もいるもんだと顔を上げる。
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