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冷たい温もり ※
分かってた。いや、思い知らされたという方が正しいか。
彼をいくら愛しても、彼が僕を愛することなんてない。習慣的に行われる行為にすり減らす精神など、とうの昔に消えた。
「あっ......んっ、ああっ、」
「.....」
付き合いたての頃、揺られる身体を捻り、彼の顔を盗み見たことがある。その時の俺は、学生時代を捧げた好きな人との初めての情事に舞い上がっていた。自分を満たす遊馬という存在が愛おしくてしょうがなかった。だから、あんな慢心を生んだのだ。
(どんな顔で僕を抱いてるんだろう。愛おしそうに僕を見てくれてたりするのかな...?)
思えば、あの時が人生の最盛期だったのかもしれない。
しかし、高校で人気者の彼に告白を承諾されて愚かにも舞い上がっていた俺の期待は直ぐに覆された。
__彼の、苦悶に歪んだ表情に。
「.....っ」
「ぁ゛.....ああ゛んんっ゛ぅ」
苦しげな声が背後から聞こえ、じんわりと温かいものが広がっていくのを感じる。
あれから彼の顔を振り返ったことは一度もない。あの時の表情をもう一度見てしまえば、きっと俺は立ち直れないから。
「あっん゛......はぁっ、はぁっ」
「くっ、」
疲労感から肩を揺らし、ぐったりと横たわる俺の上に、バタリと遊馬が倒れ込んでくる。背中に感じる鼓動に、激しく体を重ねるよりも彼を感じる。下がってくる瞼に身を任せながら、朝になったら彼がいないことにじんわりとまつ毛が湿った。
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