―魔法少女を襲撃する者―

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Act.06:ブルーサファイアとリュネール・エトワール③ 「口調」 「え?」 「蒼の口調はそれが素?」 「!」  自分が素で喋ってるのに気付いたのか、慌てて口をふさぐ。と言ってももう手遅れだが。 「もう手遅れ」 「……うん。そうだよ、これが私の素」  素直に白状する蒼。魔法少女の時に喋り方変えてるのには理由があるのだろうか。いやまあ、俺も変えてる方だけどな。  俺の場合は、性別が違うという前代未聞の魔法少女だ。バレたら世間にどう見られることやら。考えただけでも悪寒が……。 「そっちは、全く同じなんだね」 「ん」  そもそも、この姿も実は本当の姿じゃないし、言ってしまえばこの状況は蒼だけが本当の姿をさらしたという事になる。  勿論、この事を誰かに言おうなんて考えてない。そんな事は絶対しないと約束しよう。 「うわ、曇ってきた……」  そんな事考えてると蒼が空を見て呟いた。俺も釣られて空を見ると、さっきまでは太陽が姿を見せていたのに、いつの間にか現れた雲によって見え隠れし始めていた。 「天気予報、午後から雨」 「そうなの!?」 「ん。見てないの、天気予報」 「あははは……」 「笑って誤魔化した……」  今日の天気予報では午後から雨が降ると言っていた。降水確率は90%とほぼ降るだろうって話だ。 「うわわ! 降ってきた!?」 「うん」  本当は雨降る前に帰りたかったんだが、そういう訳もいかなくなった。俺は蒼の手を取って走り出す。  冬の雨は冷たい。俺は良いが、蒼が雨に打たれて風邪ひいたら大変だ。原因が雨に打たれたから、だったら休養なのに何してんのって話になる。 「いらっしゃいませ。二名様ですね、席へご案内いたします」  走って辿り着いたのは俺の良く知るファミレス。ここはお値段も安く、お財布に優しい一般市民の味方である。 「ここって……」 「ファミレス」 「いや、それは知ってるけど……私たちだけで入って良いの?」 「問題ない」  夜なら大問題だが、今はまだ昼間だ。それに俺は今こんな感じだが、27歳だしな。まあ、リュネール・エトワールは15歳くらいなのだが。  でも、15歳くらいなら一人で入っても多分大丈夫だと思う。今回は二人だが……蒼の方は何歳か知らないが。 「好きなの頼んで良いよ。奢るから」 「え!?」 「お昼は過ぎたけど、まだ昼食取ってない」  時刻は13時半を回ってる。  お昼としては若干遅いかな? いや13時半ならまだお昼って言っても良いよな。ランチタイムとやらも15時まではやってるんだし。 「……いいの?」 「ん」  そう返せば蒼は恐る恐る、メニューを開いて中を見始める。 「(ラビ、この身体で食べるとどうなる?)」 「(別に普通の状態と同じよ。だから食べれば実際の身体にも反映されるわ)」 「(そう。なら良いか)」 「(ただ、身体の方に引っ張られるから、男の時よりは入らないかもしれないわ)」 「(なるほど)」  まあ、その時は適当に軽い物を元の身体で食べれば良いか。俺もメニューを手に取り、料理を探すのだった。  しばらくして、運ばれてきたペペロンチーノを一口。蒼はどうやらミートスパゲティを頼んだみたいだ。そしてドリンクバーも。 「美味しい!」 「ん。良かった」  年相応の表情を見せてミートスパゲティを食べる蒼。ここはイタリア料理がメインだからな。  俺はペペロンチーノに更に唐辛子フレークを入れて食べる。味覚はどうやら変身前を引き継いでいるようなので安心はした。 「司って、なんかお父さんみたい」 「げほっ」 「だ、大丈夫?」  蒼の口から出た言葉に思わず吹いてしまった。 「(鋭いわね)」 「(……)」  お父さん、か。  変身前の姿なら確かにそうかもしれんな……と言っても俺は独身だが。それをまさかこの姿で言われるとは思わなかった。 「変だよね。司は女の子だし」 「ん」  実は男です、とは言えるはずもなく。  しかし、何だ。直感ってやつか? 確かに子供は地味に鋭いというか、直感が強いというか、あれだけど。  どうでも良いが、今の服装は以前の黒パーカースタイルである。これが一番こう、しっくり来るんだよな。  今の所、何度もこの姿で会う相手は居ないから一種類でも十分だ。勿論、候補としてはいくつかイメージしてる。 「あのさ……今日はありがとう」 「それは何に対するお礼?」 「全部だよ」 「どういたしまして」  特に大それたことはしてないつもりだが……いや、したと言えばしたか……撫でたり、抱き寄せたり。言葉だけ聞くともう俺犯罪者だわ。 「司が魔物と戦う理由って何?」 「また唐突に」 「あれだけ強いんだし、気になるよ」  戦う理由、か。  俺何で戦ってるんだ? 魔物を減らすためか? それも確かにあるな……俺の実家がある地域だし、滅茶苦茶にはされたくない。  後なんだろうな。  少しでも戦ってる魔法少女たちの負担を減らしたいからかな? 別に誰かに役立てたいというのは無いが、魔法少女だって傷つく。  今のこの蒼みたいに。魔法と言う不思議な力を使えるとはいえ、元は10代前半の女の子な訳だ。  ……。  本当なら他の地域の負担も減らしたいが、俺は俺一人しかない。そんなに手が伸ばせるはずがなく、ならせめてこの茨城地域だけでも、と。 「この場所が好きだから」 「……そっか」  それらしい言葉で返すと蒼も納得と言った顔をする。しかし、言っておいてなんだけど、今の凄い臭い台詞だよな……何か恥ずかしくなったわ。  その後も、軽く話をしながらファミレスで時間を潰すのだった。 □□□□□□□□□□ 「ありがとう」 「ん」  外へ出ればすっかりと晴れて、さっきまでの大雨は何だったのかと言いたい所だった。  そんな私は隣に居る少女に再びお礼を言う。司もとい、魔法少女リュネール・エトワール。茨城地域ではもうかなり有名な野良の魔法少女だ。  そんな彼女の名前は如月司。名前に入ってないけど、苗字には月って入ってるんだなと、どうでも良い事を考えた。 「家まで送ってく?」 「え。いいよそこまでは!?」  私の素……魔法少女ブルーサファイアの時とは違う本来の喋り方で答える。既にもう知られてしまったので今更取り繕う必要は無いと判断。  ぶっちゃけ、魔法省のほとんどが知ってる訳だし。何で口調を変えてるのかと言われたらやっぱり、ホワイトリリーに憧れているんだと思う。  魔法少女ホワイトリリー。  魔法省茨城地域支部所属のSクラス魔法少女だ。もうこの地域で知らない者は居ないと思う。リュネール・エトワールよりも有名だ。  以前、魔物に襲われた時に助けてもらったことは今でも覚えている。だから真似をしてるだけに過ぎない。私はBクラスだからホワイトリリーとは力量が違う。  勿論、そんな彼女の事を尊敬しているのは間違いない。でも、正直な所、リュネール・エトワールの方も気になってはいた。  魔法省にも所属せず、単独で行動する。命がかかっているのに、どうして何の支援も無い野良でやってるのか。むしろ何でやっていけるのか……。  実際会っても言葉数が少なく、何を考えているのか分からない。表情もあまり見せないし……少し怖いとも思ってた。  でも、実際は……。 「そう? 危ないよ?」  普通に気を使ってくれる、私と同じくらいの女の子であった。  ただ本人に年齢を聞いたらこれでも15歳と言われて驚いた。三つも年上だったの!? ってね。 「へーきだって」 「それなら良い、けど」  確かに言葉数は少ないけど、悪い子には全然見えない。魔法省内では要注意人物とされてるけどね。でもそれは彼女の魔法がどれも規格外だから。  感情が無い……? それも実際話してわかった。確かにちょっと乏しいけど、普通に表情を見せる。 「うん。じゃあ、行くね」 「ん。無理しないで。何かあったら出来る限り駆け付ける」  そう言って司は笑顔を見せる。 「……っ!」  ドキッとした。  それを自覚すると、みるみる顔が赤くなっていくのが分かる。え、何……まあ、あの笑顔は反則だと思うけど。 「それじゃあ、また!」  これ以上はいけないと思い、私はその場から素早く去って行くのだった。
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