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Act.08:ショッピングモールのTS魔法少女②
「あの殻、硬すぎませんか……」
県央に出現した脅威度Bの魔物相手に私は少し手こずっていました。最初は攻撃がそこそこ通っていたのですが、ある程度ダメージを与えた所で殻に籠ってしまったのです。
カタツムリの殻は硬いと聞きますが、これは流石に硬すぎではないでしょうかね。
「リリーショット!」
ステッキを魔物に向け、キーワードを紡ぎます。
白色の魔法陣からいくつもの、白百合の花弁が召喚され魔物をめがけて飛んでいきます。
しかし、当たったのは良いのですが、殻には傷一つありません。これが脅威度Bってちょっとおかしくないですかね。
「きゃ!?」
魔物は今度は殻に籠りながら、高速に回転させこちらに迫ってきます。あまりにも早かったのでちょっと慌てましたよ。
「って、そんなのありですかっ?!」
避けたと思ったら、殻の中から何本かの触手が出てきて、私に襲い掛かってきます。
「リリーバリア!」
襲ってくる触手を避けていきます。回避しきれない物についてはバリアで対応します。カタツムリが触手を出すなんておかしいですよ!!
……いえ、相手はカタツムリではなくそれに似た形をしているだけで魔物なのですけどね。
「しまっ!! うっ!?」
少しできてしまった隙を狙われ、一本に触手に足を絡めとられました。いやです、気持ち悪いです!
他の触手も引き続き私に迫って来て、両手と、もう片方の足も拘束されてしまい、逃れようと動きますが、びくともしませんね。
更に残った一本がわたしの口の中に……うえ。まずいです、まずいですよこれ!!
「んー!! んー!」
こいつ、魔法を使わせないようにしてますね。
キーワードが出せないと魔法が使えませんし、どうしましょう。いや本当に……。誰か助けてください!
「スターシュート!」
刹那。
魔物が大爆発しました。かなりの威力のようで、魔物もひとたまりもない無かったのか、触手の力が緩みました。今がチャンスですね!
身体を強く動かせば、さっきまでびくともしなかった触手より抜けることに成功しました。
「ケホッケホッ」
まだ口の中に感触がありますね。
「大丈夫?」
「何とか……有難うございます」
「良かった」
あの爆発を引き起こした張本人……その子は話題の星月の魔法少女でした。以前見た時よりも、直ぐ間近です。
噂通り、魔法少女としての衣装には星や月の絵が描かれていました。綺麗な銀髪に金色の瞳、瞳の中には星のようなものが見えます。
「あれやっちゃっていい?」
「お願いします……今ちょっと疲れてしまったので」
「分かった」
そう言って魔物に向かっていく噂の少女。実際話すのは初めてですけど、言葉数が少ない女の子、そんな感じですかね?
年はやっぱり私と同じくらいな感じがします。断言はできませんが……しばらくして、カタツムリ魔物が動き出しました。
「……凄いです」
私の攻撃では傷一つ付けられなかった殻には大きなひびが出来ていました。それでもひびが入った程度なので、やっぱり硬すぎませんかね。
魔物も魔物で殻に傷をつけられて、驚いたのか顔を出しました。どうやら私ではなく彼女にヘイトが向いたみたいですね。
噂の魔法少女と魔物の戦いを私はただ眺める事しかできません。
「硬い」
「あなたの魔法でも一発破壊は出来ないみたいね」
俺が駆け付けると、ホワイトリリーが触手に拘束されていて何だこれと思ってしまった。いやね? 現実で触手プレイとか見る羽目になるとは思わなかったぞ。
俺は慌ててスターシュートをカタツムリの魔物に飛ばし、爆発。効果はあったみたいで、触手から逃れたホワイトリリーは地面へ。
取り合えずあの魔物は倒していいとホワイトリリーに許可をいただいたので、やるしかない。
「スターシュート!」
ドカーン。
もう慣れた爆発が起こり、更にひびが入る。むう、二発でも壊せないか……別の魔法の方が良いか。
「なら……ちょっと痛いのをお見舞いする!」
俺はステッキを高く掲げる。
虚空に浮かぶ無数の星々よ、魔を砕く星となれ――
「メテオスターフォール!!」
天高くに展開された魔法陣が輝きだし、そして無数の光を落とす。否……光ではなく、これは星……隕石だ。
実戦で使うのはこれが一応初めてだ。範囲が広くてぶっちゃけ戦略兵器と言ってもおかしくない魔法なのだが、範囲を縮小させて魔物一点に集中させてる。
落ち行く星々は意思を持ってるかのように、カタツムリの魔物へと飛んでいく。その数は俺でも分からない。
無数の星に貫かれ、星が止むと、そこに残ったのは魔物の魔石のみだった。殻が硬過ぎたカタツムリの魔物は星の中倒されたのだった。
「大分疲れた」
「あんな魔法使えばそりゃそうよ。それにしてもやっぱりあなたおかしいわ」
「酷い言われよう」
あ、そうだ! ホワイトリリーは大丈夫かな。慌てて彼女がいるだろう場所に目を向ける。良かった大丈夫そうだ。
「凄い、です」
「そう?」
呆けた様子で魔物が居た場所を見ながらホワイトリリーは呟く。
「どうして、そんなに強いのですか?」
「分からない」
「そうですか……」
どうして強い、か。
正直なところ俺も謎が多すぎて分かってない。男でありながら魔力量が異常であり、覚醒……魔法少女としての力もそれに比例して強力だったし。
「あの……星月の魔法少女」
「リュネール・エトワール」
「え?」
「わたしの名前。リュネール・エトワール」
「リュネール・エトワールさん……」
「ん。呼び捨てで良い」
「リュネール・エトワール……はい、覚えました」
その星月の魔法少女って言うのはちょっと恥ずかしいから、この際だ、名前を教えておこう。そう言えば魔法少女名を考えたは良いが、実際名乗るのは初めてかもしれない。
「立てる?」
「はい。さっきの魔法凄かったです」
「それほどでも」
ぶっつけ本番だったというのは内緒だ。
今までの練習や、積み重ねられた実戦経験の賜物と言っても良いかもしれない。でも、やっぱりあれは強すぎるよな……うん、どうしようもないとき以外は使わないようにしよう。
それに消費する魔力もかなり大きいしねあれ。
「知ってると思いますが、私はホワイトリリーです」
「ん。知ってる。茨城地域の最強魔法少女」
茨城地域のSクラスの魔法少女だ。知らないはずがない。
「最強と言うのは私にはまだ相応しくありません。こんな様でしたし」
「誰でも失敗はある」
「……そうですね。改めて、助けて頂きありがとうございます」
「ん。ヒール」
「え?」
「念の為」
見た感じでは大丈夫そうだが、念の為に回復魔法をかけてあげる。ホワイトリリーの身体が淡く光ったところで終了だ。
「回復までできるんですね……」
「一応」
「そうですか」
それにしても、ホワイトリリーは随分と大人っぽい雰囲気を感じさせる。やはりSクラスと言うのがあるからだろうか。
「じゃ、わたしはそろそろ行く。魔石は好きにして良いよ」
「あ……」
軽くホワイトリリーの頭をポンポンと撫でてあげた後、俺はその場を後にする。
最後何か言いたそうにしてた気がするが、気のせいと思って去るのだった。
魔石については今回はホワイトリリーにあげよう。それに最初戦ってたのは彼女だし。
「あ……」
撫でられました。でも、嫌な気はしません。むしろ、もっとして欲しいと思ってしまいました。まだ若干残る温もりを感じます。
トクン。
何なんでしょうかこの不思議な気持ちは。実際話すのも面と向かって会うのも今回が初めてです。ですが、何かこう落ち着きません。
また……話が出来たらいいな、と思います。
「リュネール・エトワール……」
彼女はそう名乗りました。
何というか、不思議な感じがしますね。英語でもなさそうですし……でも、良い名前だと思います。
「……報告しないといけませんね」
私は不思議な気持ちの正体が分からないまま、魔法省に帰還するのでした。
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