手のひらクルー

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 そんな中、蛭児の会社で今年の「結婚したくない男ランキング」が開催された。彼はどうせまた今年も一位なんだろうなとゲンナリとしながら会社の掲示板に貼られたランキングを見に行くのであった。しかし、ランキングに彼の名前はなかった。それどころかランキングのどこにも彼の名前は無いのである。これはどうしたものかと、何気なしに隣に貼られていた「結婚したい男ランキング」を見ると、一位は自分だった。 なんと、「結婚したい男ランキング」の一位にいきなり輝いたのである。前年までの一位の男は背も高くハンサムな甘いマスクの男で仕事もよく出来る完璧な男だった。そんな彼を差し置いてランキング一位とはどんな大事件だろうか。彼は「アホくさ」と呟きながら踵を返した。  蛭児が自分の席に戻ると、部長に肩をトンと叩かれた。まさかリストラか? と思いながら恐る恐る振り向いた。部長は小脇にいくつもの写真台紙を抱えていた。それを机の上にドンと叩きつけるように置いた。 「あの、これは……?」 「全部見合い写真だよ。社内社外の女性が皆、君と結婚したいと考えているのだよ。ああ、そうそう、ウチの娘の写真も入っているから是非とも前向きに検討しておいてくれ給えよ。ははは」 「はぁ……」 蛭児は今時見合い結婚とはなんと時代遅れなと苦笑いを浮かべながら適当に取った見合い写真を眺めた。流石に見合い写真でおめかしが成されているのか、写真の女性は上の上の美人と呼べるものばかり、悪くても上の下と言ったぐらいであった。 次に来たのは庶務課の女だった。彼女はダンボールを抱えていた。 「蛭児さぁーん、これ、受け取って下さい」 「なにこれ? どうしたの?」 「全部ラブレターですよ、会社の内外から届いてますよ~」 「はぁ……」 見合い写真の次は恋文(ラブレター)か、今はいつの時代だろうか。こんな昭和後期や、その残滓たる平成初期のような恋愛接近(アプローチ)が起こるとは大時代的だと呆れながら恋文(ラブレター)に目を通すのであった。 恋文(ラブレター)に書かれていたのは、インターネットで「ラブレターの書き方」と検索して出てきたものを改変したものや、小洒落た本屋で買ってきた「誰でも書ける素敵なレター教室」を改変したような文ばかりであった。彼を否定するようなことは一切書かない美辞麗句の羅列で愛を紙面で訴えかけるものである。しかし、所詮はマニュアル。書いた女性の恋心は一切伝わってこない他所様の書いた「キレイ」な文に過ぎない。 蛭児は一応は文章で収入を得ているプロ故にこういったことは容易にわかるのであった。
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