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蛭児は近藤睦月の恋文に書かれていた連絡先に電話をかけてみた。ワンコール・ツーコール・スリーコール…… アウト。知らない携帯番号に出ないのは最早常識、蛭児が電話を切ろうとした時、やっとのことで近藤睦月が電話に出た。
「はい」
確かに近藤睦月の声だ。聞いているだけでムカっ腹が立つ媚びるような女の声。中学時代は教室からあいつの声が聞こえるだけでガクガクブルブルと震えたものだ。蛭児の胸の中に怒りと怖れの感情が湧き上がり、鬩ぎ合う。
「……」
蛭児に緊張が走り言葉を詰まらせる。しかし、黙ってはいられない。蛭児は喉の奥から勇気と声を引きずり出した。
「あ、あの…… 蛭児だけど…… 近藤さん?」
「……あっ! え? マジで? 手紙、読んでくれたんだ! 超嬉しい!」
この後、二人は中学時代の思い出話に花を咲かせた。しかし、思い出があるのは近藤睦月のみ、蛭児の方は彼女のイジメによる登校拒否によって中学時代の思い出は皆無。
つまり、近藤睦月が一方的に話すだけだった。
「じゃ、今度会おうね」
「……うん」
蛭児は電話を切るなりに「ふざけんな!」と叫び電話を机の上に叩きつけた。酒神が彼を落ち着かせにかかる。
「おい、どうしたんだよ」
「どうもこうもいられるか! あの女のせいで俺は!」
「だったら電話なんてしなきゃよかっただろ…… てか、この女に何やられたんだ?」
「ざっとだけでも、男使っての集団リンチが普通ね」
「うわ、ハードだな」
「キモイウザいって言われるだけなら、まだ天国に思えてくるんだよ」
「お前の天国、おかしいよ」
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