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数日後、蛭児は近藤睦月と会うことになった。
「あ、久しぶりぃ~ 元気してた?」
近藤睦月は三十路相当に老けていた。歳の割にはそれなりにめかし込んだ気合の入った格好だった。蛭児は食事がてら今の彼女の情報を集めることにした。
その日の夜、初デートを終えた蛭児は酒神の元を訪れた。初デートの報告を行うためである。尚、蛭児にとっての人生初デートでもある。
「よお、どうだった? 初デートは」
「女と食事するだけで大げさな。と、言いたいところだけど最悪だったぞ」
蛭児は鞄の中より婚姻届を出した。妻になる人に関連する欄が全て記入済で、後は夫になる人の欄に蛭児の名前を書いて役所に提出すれば晴れて二人は夫婦となるところまで来ているのだった。
「うわぁ…… 絶対に玉の輿に乗ってやるって気合と怨念が伝わってくるよ」
「メシ食ってる最中にスゥーっと出してくるんだぜ?」
「節操のない女だな」
「それから自分の中学卒業後からの身の上話を始めたよ。親父さんが人工透析で一日置きに病院で大変だとか、お母さんも脳梗塞で亡くなって、九十歳回ったお婆ちゃんを介護するのが自分しかいなくてヤングケアラー状態なんだってさ」
「人生色々だねェ…… でも、結婚とは別問題だろ? 明らかに父親の介護と婆ちゃんの介護任されるフラグじゃないか」
「あの女、俺の家族構成を覚えていたのか『次男だったよね?』って妙に連呼してくるんだよ」
「確かひーちゃんのお兄さんって結婚してるよね?」
「うん、俺と違ってブサイクじゃないから結婚は早かったよ。今は遠くで幸せにやっているよ」
「うわ、家の跡継ぎでもないから大金目当てに加えて介護要員確保のため婿養子のフラグも立ってるよ。悪い言い方すれば訳あり物件じゃないか。婚活パーティーでも黙ってる訳にもいかないしな。こりゃあ結婚出来ないわけだ。一般論として、縁談来たらお断り案件だね。誰だって反対するよ」
「俺の場合だったら全部お金でどうにか出来ちゃうけどね……」
蛭児は遠い目をして遠くにある窓の向こうを眺めた。酒神は不快そうな顔をしながら「うわ、嫌味だな」と吐き捨てた。そして尋ねる。
「明らかにそれ狙いじゃないか。実に分かりやすい。で、結婚するのか?」
「実は同情覚えてね。彼女の思い通りにしてやろうかと思うんだよ。中学の時の事も覚えてないみたいだったし、穿り返すのもアレだと思ったしね」
「ええーッ!? マジかよ! だったら俺がひーちゃんと渋谷区行くよ」
「はぁ!?」
「パートナーシップ条例か? お前のことは好きだけど、そういった好きじゃないんだよ、ゴメン」
「いや、ひーちゃんが搾取されるぐらいなら俺が貰ってやろうかなって…… そうすればこの女も諦めつくだろ?」
「ありがとう、気使ってくれて。でも、やることあるんだよね……」
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