手のひらクルー

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 数日後、蛭児は近藤睦月を連れて住宅街の片隅にあるトランクルームを訪れていた。彼女は蛭児と手を繋ぎ、尋ねる。 「ねぇ、婚姻届書いといてくれた?」 「……うん。これが終わったら役所に出しに行こう」 「うれしい! ところで、こんなトランクルームなんかに何しに来たの?」 「君の結納金って言うの? 君、色々大変で当座のお金が必要なんでしょ? 税金対策で銀行に入れてないお金があるから、現金でポンとあげようかなって」 「ありがとう、気使ってくれて」 「いや……」 二人は最奥に位置するトランクルームの前に立っていた。蛭児はよいしょと言った感じにシャッターを持ち上げる。 「ここの奥に一個だけアタッシェケースあるから…… 持ってきて貰える?」 「え? 持ってきてくれないの?」 「新作の執筆に入っていてね、腱鞘炎で手がピリピリするんだよ」 「もう、仕方の無い人ね」 近藤睦月はトランクルームの奥へと入り、一個だけ置かれていたアタッシェケースの持ち手に手をかけた。その瞬間、蛭児は声をかけた。 「中身、確認してもらっていい? 多分一億円はあると思うんだけど」 近藤睦月は一旦アタッシェケースを床に置き、二箇所の留め具を開けた。パチン パチン と留め具を開ける音がトランクルーム内に響き渡る。彼女は中に入っていた現金一億円を見て目の色を変える。考えることは「これでお婆ちゃんを老人ホームに入れて厄介払い出来る」「お父さんも面倒臭くなってきたから入院させようかな…… お金だったらどうにでもなるし」だった。この後はブランド物に身を包んで、美味しいものが好きなだけ食べられる贅沢生活……  彼女の未来は希望に満ちていた。そう、これから始まる結婚相手を金銭的に食らい尽くす愛のない結婚生活が待っているのだから……
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